【BANANAFISH】Lullaby【アッシュ】
第9章 ふたつの心
「ちげーよ。炭酸水」
アッシュは木箱の端で器用に瓶の蓋を開けた。
「わ、すごいね・・・!」
「こんなの簡単だぜ」
ちょっと笑って、ほら、と手を出される。
少しだけ得意気な表情に、こんな顔もするんだと驚き混じりに見つめた。
アッシュが私の分の瓶を・・・と言っても倉庫からくすねた瓶だけど、同じように蓋を開けてこちらに手渡してくれた。
「ありがとう」
瓶を受け取って口をつけると、炭酸水がシュワシュワと口の中を刺激した。
「美味しい」
カラカラに乾いていた喉が潤って生き返る心地だった。
私は、アッシュが眠っている間にずっと考えていたことを言おうと口を開いた。
「アッシュ・・・あのね」
「何?」
「アジト、っていう所に私が行ってもいいの?」
アッシュは瓶に口をつけたままこちらを見た。
「俺もその話をしようと思ってた」
ふ、とひと息ついてからアッシュが話し始める。
「正直、これまでみたいに気楽な場所じゃない。一見穏やかに見える奴もいるにはいるが、基本は皆気性が荒い。それに何十人もいる中に、女はいない・・・一人もだ。だからおまえをよく思わない奴もいるかも知れない」
「うん・・・そう、だよね」
アッシュの言いたいことは何となく理解出来た。
「俺がずっと傍にいるわけじゃない。いや、おそらくこれまでの相手の動きからして、当面の標的は俺ひとりだから、むしろ傍にいないほうがいいはずだ」
アッシュのグリーンの眼が真っ直ぐに私を見た。
「絶対に守ってやれると約束は出来ない。それでも来るか?」
「うん、行く」
ゆっくりと頷くとアッシュも頷いて、それから少し暗い顔をした。
「“コレ”の使い方、教えとかないとな」