【BANANAFISH】Lullaby【アッシュ】
第9章 ふたつの心
ーーー怒涛のような時は過ぎて、薄暗い倉庫の中、アッシュが私の肩にもたれて眠っていた。
少しでも動けば、神経の鋭いアッシュはきっと起きてしまう。
息をするのも動かないように、音を立てないように気をつけた。
守ってもらってばかりの私に出来ることはそれくらいしか無かったから。
・・・アッシュは、アッシュ・リンクスで、ストリートギャングのボスで。
そう聞いても全然実感が湧かない。
私が見てきたアッシュは、小さな物音でも目を覚まし、夜中にうなされ、寝起きがとても悪くて、下手な料理を文句も言わず食べてくれる人。
私を助けてくれて、私に勉強を教えてくれた人。
アッシュは自分のことをろくでもない人殺しだと、そう言ったけれど、アッシュがそう言おうと、誰がなんと言おうと、私にとってアッシュはろくでもない人なんかじゃなかった。
私を救ってくれた、この世に唯一の人だ。
今アッシュの傍を離れるなんて、考えただけでも胸が苦しくなって、息ができなくなりそうだった。
パキン。
「・・・・・・・・・ん」
どこかで木箱が軋む音がして、アッシュが目を覚ました。
「・・・何分経った?」
肩にもたれていた頭が離れていく。
心地良い温もりが消えていくような気がして少し寂しく思った。
「うん、十分か十五分か、それくらいかな・・・」
「そんなにか。悪い」
「ううん。もうすぐ真っ暗になるね」
冬の日の入りは早い。
アッシュはふわ、と伸びをして立ち上がった。
何かを探してその辺に置いてあるボトルや瓶をのぞき込んでいる。
「・・・ラッキー」
隣に戻ってくると、私に小さめのグリーンの瓶を渡した。
「喉乾いたろ」
自分ももう一本、同じ瓶を持っている。
「お、お酒・・・?」
アルコールを飲んだことの無い私は戸惑いながらアッシュを見た。