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【BANANAFISH】Lullaby【アッシュ】

第8章 Lullaby




理解出来ない言動に、何故だか無性にイライラした。

「人殺しに名前呼ばれたのがそんなに嬉しいのか?」

吐き捨てるようにそう言うと、リサの瞳が悲しげに俺を見た。

「なんでそんなこと・・・」

なんでもクソもない。
いっそのこと、恐れて、軽蔑して、自分から離れて行ってくれればいい。

「さっき言ったろ。俺はチンピラで、人殺しで、ろくでもない人間だ。あの部屋に住めなくなって、むしろ良かったんだ。もっと早く、俺から離れるべきだった」

俺は、おまえに怯えた目を向けられたくないんだ。
もしそんな目をされるくらいなら・・・

「アッシュ・・・」

リサの瞳が泣き出しそうに歪んだ。

「お願い、そんな風に言わないで。アッシュがいなかったら、私は今頃死んでるか、死んだように生きてるかのどっちかだよ・・・。あのマンションでもさっきも、アッシュは私を置いて行くこともできた。それなのに、足でまといでしかない私を連れて逃げてくれて、本当に感謝してる」

やめてくれ。
俺は礼を言われるような人間じゃない。

そう言いかけた俺の言葉を遮るように、リサはすぅ、と息を吸って話し始めた。

「私ね・・・・・・何年も何年も、顔も見たくない人達に身体を好きなようにされて、嫌で嫌でたまらなくて・・・ずっとどこかへ逃げたかった。どこにも行くところなんて無いのに、それでもいつか逃げられるんじゃないかって・・・」

今にも泣きそうなリサの瞳は、薄暗い倉庫の小さな窓を見つめていた。
そこから微かに光が射し込んで、リサの透き通るように白い肌をぼんやりと照らす。

辛かった時間を思い出したのか、リサはわずかに眉を歪め、目を閉じた。
黒く長いまつ毛のせいで、頬に暗い影が落ちる。


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