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【BANANAFISH】Lullaby【アッシュ】

第8章 Lullaby




知っていたのか。
そう思いながら俺は答えた。
確信は無かったのかも知れないが、スキップが知っていても不思議じゃない。

「ああ、そうだ」

“アッシュ・リンクス”は、白い悪魔と呼ばれた俺の名前だ。
ボスなんて言えば聞こえはいいが、ただのチンピラで、悪魔で・・・人殺しだ。

こめかみを撃ち抜かれた死体を目にした時のリサの真っ青な顔が脳裏に浮かんだ。
“人殺し”の傍にいて、何ひとついいことなんかあるわけが無い。

・・・俺はリサのためを思って自分の正体を明かさなかったんじゃない。
自分は悪魔だと・・・人殺しだと、知られたくなかっただけだ。
ただ、我が身可愛さにそうしたんだ。
助けたつもりで、自分を満たしたかっただけだ。


一体どんな言葉がリサから返ってくるだろうかと、重苦しい気持ちが俺を支配した。

リサは何故か立ち上がって、俺の傍に来た。
隣にあった木箱の上に腰掛ける。

「リサだよ、アッシュ」

いつもの静かで、穏やかな声だった。
予想だにしなかった言葉に、俺はリサを見た。

「え?」

「さっき初めて、“あんた”じゃなくて名前を呼んでくれたよね」

「あぁ・・・そうだったか?」

何でいまそんな話をするんだ?

「うん、ずっと“あんた”だったのに。嬉しかった」

リサはそう言って笑った。
場違いな柔らかい笑顔だった。
それでも、全てを忘れてただ魅入ってしまいたくなるような。

俺はリサの言葉も笑顔も、理解出来なかった。

俺はリサの目の前で人を殺した。
見られたからには、今朝までのリサとのなんでもないようなやり取りはきっともう二度と出来ないと思った。

それなのにリサはいつものように笑っている。


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