【BANANAFISH】Lullaby【アッシュ】
第8章 Lullaby
「大丈夫だ。意外といい度胸してるな」
そう言って二人で立ち上がった瞬間、隣のビルからライフルの発砲音が聞こえた。
見つからないうちに身を隠さなければならない。
無事着地したことが信じられないという風に、いまだに目を丸くしたままのリサの手を引いて、ビルの屋上から外階段を駆け下りた。
幸い隣のビルからは死角だ。
地上まで降りると、なるべく人目に着きそうにない道を選んで走った。
路地を縫うようにして、酒屋の倉庫にたどり着く。
ここは昔から危ない時たまに逃げ込んでいた場所だ。
入口にはシャッターが降りているが、横の通用口のロックを解除して中に入り込む。
この店は火曜日が定休日だ。
明日まで誰かが入ってくることはまず無い。
薄暗い倉庫の奥に積まれた段ボール箱のひとつにリサを座らせる。
「大丈夫か?」
そう訊くと、リサはまだ肩で息をしながら頷いた。
「うん、私は大丈夫。アッシュは怪我してない?」
「ああ、無傷だ」
「よかった・・・でもマフラーを落としたの」
悲痛な表情で俺を見上げ、心もとなそうに首元に手をやる。
「そんなのまた買えばいいだろ」
「でも、せっかくアッシュがくれたマフラーだったのに・・・」
今にも泣きそうな表情に可哀想に思わないこともないが、拾いに戻る訳にはいかない。
自分一人なら動けるが、リサと二人では危険だ。
「悪いがほとぼりが冷めるまで、もうしばらくここで隠れてなきゃならない。・・・スキップはどうした?」
「家に帰ったよ。お父さんが亡くなったって、たぶんしばらくこっちには来られないんじゃないかな・・・」
「そうか。念の為俺から連絡しとく」
スキップにあのビルには行かないようメールをして、その後すぐにアレックスに電話をする。