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【BANANAFISH】Lullaby【アッシュ】

第8章 Lullaby





隣のビルはこのビルより低く、飛び移れない距離じゃない。
でもそれは、あくまで俺にとっての話だ。
リサならば・・・
さっきの走り方からすると、ギリギリか、運が悪ければビルとビルの間に真っ逆さまだ。

悩んでいる間に「こっちか!?」と声がして、屋上のドアノブがガチャガチャと音を立てた。
もしまたライフルを使われたら金属のドアでも簡単にぶち破られる。

時間が無い。
俺はリサに向き直った。

「リサ。今だけでいいから俺のことを信じて欲しい」

「えっ・・・?」

リサが琥珀色の瞳を震わせて俺を見た。

「俺があっちへ先に跳ぶから、その後すぐに同じように跳べ。絶対に受けとめてやるから」

リサは視線をビルの下にやり、とてもYESとは言えないくらい青い顔をしたが、それでも覚悟を決めたようにしっかりと俺を見つめた。

「下を見ずに跳ぶんだ。出来るな?」

「う、うん、やってみる」

返事を聞くや否や、俺は隣のビルへ跳んだ。
着地してリサの方を振り向いた。

「リサ!」

名前を呼んだ瞬間、リサがコンクリートの地面を蹴って、マフラーが宙に舞った。

まるでスローモーションだった。

空中のマフラーは、リサの背に生えた羽根のようだった。

リサはぎゅっと目をつむったまま、空中にいびつな放物線を描く。

ビルの端ギリギリに着地したリサをキャッチしながら、身体の重心を思い切り後ろに移動させた。
二人分の体重で背中を強かに打ち付ける。
もしこっちのビルにフェンスがあったら、反動で跳ね返され二人とも落ちていたかもしれない。
そう思うとヒヤリとした。

リサはそれくらい、勢いよく跳んできた。

「アッシュごめんなさい・・・!大丈夫!?」

慌てたリサが俺の上で身を起こした。

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