【BANANAFISH】Lullaby【アッシュ】
第8章 Lullaby
それから一週間経ち、リサをマンションから連れ帰ってから二度目の火曜日が来た。
俺はいつものように朝食をとった後、スキップと入れ替わりに部屋を出た。
フライによると、あのマンションの最上階は売り払われて、今は何事も無かったかのようにモデルハウスになっているらしい。
リサが住んでいたアパートメントもいつの間にか鍵が変えられ、全く無関係の人間が住んでいるという。
“R”の足取りは掴めないままだ。
どうせどこかの病院で、ちぎれた耳の治療でもしているところだろう。
警察内部のことまでは探れないが、揉み消される可能性を残したまま被害届を出すべきか悩んでいた。
いや、俺が悩んだところで仕方ないことだ。
俺は手元にあるリサを看たメレディスの診断書と、あの男の肉声データが入ったUSBメモリを見つめた。
明日にでも銀行の貸金庫に入れておこう。
今後リサがその気になれば、いつだって訴えることが出来るように。
そう考えながら、同時にこうも思う。
なんで早く公的な機関にリサを連れて行かない?
俺はリサの家族でも、ましてや友達でもない。
身体が回復するまでと言うなら、もう充分元気だ。
「おかえり」と笑顔を浮かべるリサを思い出す。
少しずつだが進歩している料理や、不器用にたたまれた、四つ角が合っていない洗濯後の洋服達。
寝起きの悪い俺を怒りもせず、楽しそうに起こす姿。
・・・これじゃまるで、俺がリサを手放したく無いみたいじゃねぇか。