【BANANAFISH】Lullaby【アッシュ】
第8章 Lullaby
翌日。
ギィーーーーーー
ギィーーーーーーーーー
キーーーーーーキリリリリリリ・・・
心の底から不愉快な音が狭い部屋に響いている。
それももう五分以上もだ。
「・・・頼むから普通に起こしてくれよ」
さすがに耐えきれず、耳を塞ぎながらソファの上で起き上がった。
間違いなく人生でワースト3に入るほど最悪の目覚めを迎えた俺の視界に、楽しそうに笑うリサが映った。
「おはようアッシュ。普通にってどうやって?アッシュは声をかけても毛布を剥いでも起きないし、同じやり方じゃ三回目には慣れちゃうから難しいよ」
しれっと窓辺から離れて朝食のサラダを用意しながらそう言う。
・・・なんか段々俺に慣れてきてるな。
リサの言う通り、数日前から始まったガン見作戦は、一日目こそ視線が気になって目覚めたが、三回目には全く気にならなくなってしまっていた。
そもそもリサは普段からいい意味で存在感を感じさせなかった。
いちいち他人の気配に神経を尖らせてしまう俺には何よりのことだ。
用意されたサラダに塩とビネガーとオリーブオイルを適当にふりかけながらリサを見ると、シーツや服を洗濯しようと大きなカゴに詰め込むところだった。
「そんなに毎日洗濯しなくても誰も気にしやしないぜ」
「うん。でも洗濯好きなの」
「ああ・・・知ってる。そのせいで前にえらい目に合ったからな」
リサはバツの悪そうな顔をしてこちらを見た。
「ごめん・・・今度新しいジーンズ買ってくるね」
「冗談。それよりあんまり出歩くなよ。この辺りは冗談じゃなく物騒なんだ」
厚みがバラバラのキュウリをフォークで刺して言った。