【BANANAFISH】Lullaby【アッシュ】
第8章 Lullaby
痣の部分を冷やしながら少し圧迫されている。
相当な冷たさだが、打ち身の熱をとってくれるようで意外に心地よかった。
「アッシュ、左腕をもう少し上げられる?心臓より高い位置」
「え?」
冷却すら大袈裟だと思っているというのに、さらに腕まで上げろとリサは言う。
「何もそこまでしなくたっていいんじゃねえの」
「ダメだよ。こういうのは早めに対処しとけばすぐ治るんだから」
有無を言わさぬ真剣な瞳に、俺は仕方なく冷やされている腕を目線の高さまで上げた。
まあ右手一本あればマウスとキーボードの操作くらい出来る。
リサは左腕が落ちてこないように両手で支えてくれていた。
傍から見れば、何とも妙な光景だろう。
「・・・あんた、俺のことが怖くないのか?」
数分経った頃、俺は出来るだけさりげなく、ずっと聞きたかったことを口にした。
「それは、アッシュのことを?それとも男の人を・・・っていう意味?」
返ってきたリサの声のトーンはいつも通りで、少しホッとした。
「・・・両方」
そう答えると少し間が空いて、リサが答えた。
「怖くないよ。アッシュのことを怖いと思ったことなんて無い。・・・男の人はね、ほんの少し前まで怖かった。あの髭のお医者さんとか特に。でも今はたまにコインランドリーで男の人にすれ違ったりしても、あの時よりずっと平気になったよ」
明るい声でリサは続ける。
「この16年間、確かに酷い人生だったのかも知れない・・・でもそれだけが私の全てじゃないって今は思える。スキップに出会って、アッシュにも会えて・・・私はラッキーだった。辛いことも多かったけど、それだけじゃないから。今、そう思えるのはアッシュのおかげだよ」