【BANANAFISH】Lullaby【アッシュ】
第7章 山猫の住処
「今更だよ。別に涙も出ないんだ。ただ、母さんの音声メッセージ、すげえ泣いててさ・・・。俺ほどじゃないけど母さんだって殴られたりしてたのに。あんな親父でも、やっぱり死んだら悲しいもんなのかな」
スキップの言葉は、お母さんに対してじゃなく、まるで自分自身に問いかけているように聞こえた。
「私なんかが言っていいか分からないけど・・・。お母さんが結婚したってことは、きっとお父さんのこと、一度は好きになった相手ってことだよね・・・?それにスキップみたいな素敵な子が生まれてきてくれたのはお父さんが居たからこそだし、やっぱり涙は出るんじゃないかな」
「そうかな・・・」
「うん。きっとそうだよ。お母さん、スキップに帰って来て欲しいんじゃない・・・?泣きながら連絡してくるくらいだもん。きっと、待ってるよ」
私がそう言うとスキップは少し考えるかのように瞳をさまよわせた後、ベンチから立ち上がった。
「リサ・・・。うん。そうだね、俺ちょっと帰ってくる。もしかしたら、しばらく来れないかも知れないけど大丈夫?」
「私のことは心配しないで、ほらもうかなり元気だし」
私が笑ってみせると、スキップは頷いて駆け出した。
走って行く後ろ姿は心なしかいつもより元気が無かった。
「スキップ、大丈夫かな・・・」
親というものを知らない私が、偉そうに言うことではなかったのかも知れない。
でもこんな時は多分、私なんかよりお母さんのそばにいる方がお互いに慰めになるんじゃないかって、そう思った。
次に会う時には、少しでもスキップを笑顔に出来たらいいな・・・