【BANANAFISH】Lullaby【アッシュ】
第7章 山猫の住処
ここへ来てから二度目の火曜日。
ニューヨークから寒波は去ったものの、 ほんの少し外へ出るだけでも二月末の空気はまだまだ冷たい。
アッシュが出掛けて行ったお昼過ぎ、私はスキップとコインランドリーで洗濯機を回してから、スキップが買ってきた漫画を読みながら乾燥が終わるのを待っていた。
「この表紙の主人公、なんかアッシュに似てない?」
「わ、似てる!髪と眼の色が同じ。でもこんなに筋肉ムキムキじゃないよね」
「リサ、そんなにまじまじとアッシュの身体見たことあるの?」
「えっ!?ないない、ないよ、包帯巻いた時だけだよ。っていうかスキップもいたでしょ?あの時」
二人で待ち合いのベンチに座って、そんなたわいもない会話をしている時だった。
スキップのスマホが鳴った。
耳に当て、音声メッセージを確認した顔が曇る。
「スキップ、どうしたの?」
スマホを持ったままフリーズしてしまったスキップに私は問いかけた。
「・・・・・・父さんが死んだって、母さんから・・・」
「えっ・・・」
驚きで、咄嗟に言葉が出なかった。
昼も夜もお酒を飲み歩いて家を空けることが多かったけれど、帰ればスキップに暴力ばかりふるっていたというお父さん・・・
「酔っ払ってその辺のやつと殴り合いになって、打ちどころが悪かったって。まあこの辺じゃよくある話」
酔うと手がつけられなくなる、とスキップはいつもお父さんのことをそう言っていた。
「不思議だよね、あんなに殴られたり蹴られたり、ほんとろくでもない親父だったのに・・・どうして・・・」
スキップはその先を言わず黙り込んだ。
「スキップ・・・」
こんな時、何と言葉をかければいいんだろう。
私はスキップの手をそっと握った。
その手は震えてはいなかったけれど、私の手のひらよりずっと冷たくなっていた。
「帰らなくて、いいの?」
やっとのことでそう口にした。