【BANANAFISH】Lullaby【アッシュ】
第7章 山猫の住処
「拾わない・・・・・・と、思う・・・」
語尾に行くにつれてだんだん小さくなる私の声に、アッシュはまた笑って言った。
「その言葉、信じてるぜ」
「うん、だってここはアッシュの家だもん。勝手に連れてきたりしない・・・・・・と、思う・・・」
「その、“と、思う”ってのが不安だけど、まあでも別にここは俺の家ってわけでもないしな」
私がソファを占領しているせいで、アッシュはその正面にあるベッドに腰掛けた。
「えっ、そうなの?」
同じくらいの目線になったアッシュを見る。
「俺に家なんかねえよ。言ったろ?寝泊まりしてる場所だって。あんただって、ずっとここにいるわけじゃない。傷が癒えたら然るべきところで保護してもらった方がいい」
「然るべきところ?」
「・・・似たようなやつが集まるところさ。そこに住んで心や身体の治療したり、学校でやるような勉強を教えてくれたりするはずだ」
「そうなんだ・・・そこは遠いの?」
「あぁ・・・どこに行くかは俺には分からないけど、おそらくこの辺みたいな物騒なとこじゃなくて、もっと環境の良い場所だろうな」
「そこには大人の男の人もたくさんいるかな・・・」
私は視線を落とした。
「・・・いるかも知れないけど配慮はされるさ。程度は違うにしろ、似たような目に遭った子どもは他にもいるだろうからな」
「そっか・・・」
そうなったら、もう図書館に通うことも、アッシュに勉強を教えてもらうことも、それどころかスキップにもアッシュにも会うことすら出来なくなるんだろうか。
遠い場所なら、きっとそうなるんだろう。
ずっとここに居候するわけにいかないのは分かってる。
でも、何でこんなに悲しい気持ちになるんだろう。