【BANANAFISH】Lullaby【アッシュ】
第7章 山猫の住処
結局、アッシュが帰ってきたのはそれから一時間ほど経ってからだった。
マフラーを巻いたままの姿を見て、ちょっと安堵する。
私はと言えばソファに座ったまま夜明けを迎えていて、白い息を吐くアッシュに眉をひそめて怒られた。
「ずっとそこに居たのかよ。寝てないと治るもんも治らないだろ」
「・・・ごめんなさい」
アッシュは窓辺に立って何かを探るように外を見つめながら、私のことを見ずに言った。
「・・・もしかして帰ってくるまで待ってたのか?」
「・・・・・・・・・」
アッシュが窓の外から私に視線を移す。
イエス、と言ったらアッシュが自分を責めるような気がして、曖昧に笑って誤魔化した。
「謝るのはこっちの方だな・・・眠れなくさせたのは俺だ」
マフラーを外して無造作に丸めて手渡される。
アッシュは人のことを言えない。
だって意外とすぐに謝る。
「ううんそんなことない。私が起きてたかっただけ。その・・・心配、だったから」
そう言うと目の前に立つアッシュは数度瞬きをしながら私を見つめた。
「心配?」
「そう・・・外は寒いから風邪引いちゃわないかなって。あと、ガラの悪い人に襲われたりとか・・・」
アッシュが笑った。
「ガラの悪い人、ね」
私よりずっと大人っぽいのに、笑うと歳相応に見える。
笑うアッシュを見るのは好きだけれど、何で笑っているのか全然分からない。
「なんで笑うの?」
「いや。あんたの言うとおりだよ。この辺はガラの悪い奴らばっかりだ。間違っても拾って帰るなよ」