【BANANAFISH】Lullaby【アッシュ】
第7章 山猫の住処
「・・・め、ろ・・・」
どれくらい時間が経ったのか。
何かうめき声のようなものが聞こえて、はっと目を開けた。
「や・・・めろ・・・・・・離せ・・・!」
暗闇の中でもがくように、アッシュが毛布を掻きむしっている。
「アッシュ?」
私は一瞬ためらってから、アッシュの顔を覗き込んで名前を呼んだ。
毛布を掻きむしる手が止まったと同時に、両目がばちりと開く。
あ、と思った時には身体が床に叩きつけられていた。
衝撃で目の前がチカチカと光った。
「・・・っ!ゴホゴホ・・・ッ!」
背中を強かに打ちつけたせいで咳込む。
すぐに視界は戻った。
馬乗りになったアッシュが、私の眉間に銃を突きつけているところだった。
銃口のひやりとした感触が伝わる。
「アッシュ・・・大丈夫?」
アッシュは瞳を見開いて愕然としていた。
自分がしたことに、私以上に衝撃を受けているようだった。
暗くて表情まではよく見えないけれど、眉間から離れていく銃を持つ手と、僅かな光すら捉えるグリーンの瞳は明らかに震えていた。
「悪い・・・恐がらせて。痛かっただろ」
こちらまで苦しくなるほどの、悲痛な声だった。
アッシュが素早く拳銃をズボンの中にしまい込んだ。
私の腕を掴もうか悩んだのか少しの間が空いて、それから身体を起こすのを手伝ってくれた。
そして、すぐにこちらに背を向ける。
「ううん、私は大丈夫。むしろびっくりさせてごめんね」
私は今にも薄暗闇に溶けてしまいそうなアッシュの背中に声を掛けた。
「いや、あんたは悪くない。ごめん」
謝らないで、アッシュ。
アパートで銃口を向けられた時も、そして今も、私は恐ろしさなんて感じていない。
だって、アッシュの方が余程傷ついた瞳をしていたから。