【BANANAFISH】Lullaby【アッシュ】
第7章 山猫の住処
“おはよ!よく眠れた?アッシュが帰って来たからいったん自分ちに帰るけど、アッシュと仲良くね!”
最後のエクスクラメーションマークの後に、ハートのマークがついている。
「・・・・・・・・・?」
このハートはなんだろう。
なんとなく何かを勘違いされている気がしたけれど、とりあえず短く“わかった。ずっとついててくれてありがとう。”と返信した。
「皿ないけど食えるだろ?」
アッシュが思い出したように薄暗かった部屋の電気をつけた。
それから温めたスープの缶を机の上におろして、私に大きなスプーンを渡してくれる。
トマトの美味しそうなにおいが辺りに漂っている。
「うん。いいにおい。アッシュは晩ご飯食べたの?」
「ああ、だいぶ前にな」
ひとつしかない椅子を私に譲って、アッシュはソファに腰掛けて何やら難しそうな雑誌を読み始めた。
そっか、もう真夜中だもんね。
そう思いながらスプーンでスープをひと口すくって食べた。
「あっ・・・つ・・・!」
缶詰は充分に加熱してあって、もちろん中身も当然のごとく熱々だった。
躊躇なくすくったばっかりのスープを口に入れた私は訳の分からない刺激で飛び上がった。
「ばっ・・・全然冷まさずに食うやつがあるかよ」
ぎょっとしたアッシュが立ち上がって、机の上にあったミネラルウォーターのボトルを開けて渡してくれた。
受け取って涙目でもだえながら、無言のまま冷たい水で舌を冷やす。
アッシュ、いま馬鹿って言おうとしてやめたのかな、とちょっと恥ずかしくなった。
「ありがと・・・これ、すごく美味しい」
今度はちゃんと冷ましながら食べる私を横目で見て、アッシュがちょっと呆れたように言った。
「そんなに?ただの缶詰だぜ、それ」
「うん、美味しいよ」