【BANANAFISH】Lullaby【アッシュ】
第7章 山猫の住処
カタン。
小さな物音で目が覚めた。
「ん・・・スキップ・・・?」
薄暗い部屋でモゾモゾとベッドから起き上がる。
スキップが寝転がっていたソファには誰も居なくて、窓際の椅子に腰掛けていたのはアッシュだった。
眼鏡をかけた顔が、パソコンのディスプレイの光にぼんやりと照らされている。
そんなわずかな明かりですらアッシュの美しさを引き立てていて、私は無意識に見とれてしまう。
「悪い、起こした」
アッシュがこちらをチラと見て言った。
だけど見たのは一瞬だけで、すぐに視線はディスプレイに戻り両手はせわしなくキーボードを叩いている。
朝に出かけて行った時とは全然違う服を着ている。
朝はスーツのようなジャケットを羽織ってコートを着ていたけど、今はラフな出で立ちだ。
「ううん、寝すぎてしまって・・・」
言いながら部屋を見回したけど、シャワールームにもスキップの気配はない。
窓の外のネオンが、もう随分と遅い時間なのを教えてくれていた。
「腹減ったろ。缶詰のスープしかないけど食うか?」
言いながらアッシュはキーボードを叩く手を止めた。
パソコンをどけて、机の上の紙袋から大きな缶詰を出してこちらに見せてくれる。
「うんありがとう、食べる」
アッシュが小さなコンロを取り出してきて、その缶詰を直接火にかける。
私はそれが珍しくて、ベッドから降りて机の側に膝をついてアッシュの行動を眺めた。
「スキップならさっき俺と入れ違いで自分ちに帰ったぜ。あんたにはメールしとくって言ってたけど」
そう言われて初めて、スマホの受信メッセージに気付いた。