第1章 幕開け
「ちょっとペンギンくん〜?行こう??」
胸下を大きく開いた露出の高い服を着ている今夜の相手がつまらなそうに口を開いた。
彼女はペンギンに大きな胸を当てるが、全く反応を見せてくれないペンギンにつまらなそうな顔をした。
ネオンの光が街を照らしている。
月が欠けていて、欠けた月さえも雲が隠す。
わたしの嫌いな夜が来た。
「ふぅ…」
ワインを一口口へとはこぶ。
「ごほっ…っゴホッゴホッ」
慣れない酒に少しむせる。
(まずい…)
少し背伸びをして飲んだお酒はやはり口にはあわず、薄暗いバーで飲んでいる人たちをみて大人の世界を知った気になる。
慣れない露出の高い服も、あちこちにいる女たちは毎晩のように着ている。
自分が背伸びをした幼い子供のようで嫌になり、ムキになりまたワインをはこぶ。
(ごくり)
やっとの思いで少量を飲んでも、やはり慣れず、水を飲む。
「オイ、そこの女オレと一緒に飲まねぇか?」
濁声の男の声がした。
その声に思い出したくもない嫌な記憶が薄く脳裏に浮かぶ。
あの男にとてもよく似ているその声にーー。
思わず振り向くと、声の主の男と目があった。
巨体の男はドクロマークを掲げた服を着ていて、とてもいかつい。
男は返事を待っているようだった。
わたしに向けて言ったものなのだろう。
黒いドロドロとした感情が浮かぶ。
思い出したくもないあの夜に心が沼りそうになる。
「えー…わたしあなたみたいな下品な男と同席とかぜったい無理なん他あたってもらえますか〜?」
男が口を鯉のようにパクパクとした。
その間抜けな姿に思わずクスリと笑みを浮かべると、男が顔を真っ赤にし、次の瞬間ナイフを取り出した。
こわい。
単純にそう思う。
だが、そんな力任せにナイフを振り下ろそうとしても、無駄だ。
わたしが相手なのだから。
小さな世界の王様を見ている気分になった。
彼は小さな世界のチャンピオンだったのだろう。
世界を知らない弱虫はこれからの時代では生きていけない。
「ナイフを床に落として、眠りなさい」
呟く。
バタンッ!!
大きな音をたてて床に男が倒れる。
「は?」
聞こえた声の方を向くと、penguinという帽子をかぶった男が立っていた。