第6章 前・戯
ボラーからキスをした。
そっけない、照れ隠しのくちづけ。
唇の感覚は薄く、軽く、触れる。
止めてしまえば見つめあう。
だから、ふたたび触れる。押しつける。体温を感じる。
睫毛が睫毛をかすめて少しくすぐったい。
ボラーの両手は[元カノの名前]の頬を包む。
温かい手。
そして、長い、長い、長いキスをした。
仕返しではないけれど、[元カノの名前]はボラーの髪を撫でた。
さらり。
すんなりと通る、肌触り。
さらり。さらり。
前髪を耳に掛けてあげると、彼の優しい目が露わになった。眉は強い意志を感じるものだけれど、目尻は下がっていて柔らかい。
触れあう体と体との、温度は同じになる。
ボラーが微笑む。
その手は[元カノの名前]の耳を包み、そのまま、うなじへ流れる。
反対の手で手を繋ぎ。
唇を首筋に当てる。
濡れた舌の感触は、波紋のように全身へと広がり、ぞわりとした快さを生んだ。
肌を伝う指。
繊細に、丁寧になぞる。
ぶっきらぼうでいて、本当は思いやりに満ちていて。
それで、でも……。
「[元カノの名前]」
ボラーが静かに言う。
真直ぐに見据えて。
そして、[元カノの名前]の眉間をぐりぐりとほぐした。
「考えないでいいから。余計なこと」
額に唇が触れる。
それから、彼は顔を逸らした。
「ちょっとかっこつけちまったか……」
小さな声。
鼓動が大きくなる。
顔に似合って、頬を染める彼。
[元カノの名前]は体を寄せ、彼の鼓動をはっきりと感じ取る。
とくん、とくん。
知られたくないのか、ボラーは体の位置をずらそうとする。[元カノの名前]は、彼の胸に顔を埋め、その背に腕を回す。
小さな突起に舌が触れると、体がよじられた。優しく噛んでみると、体がよじられた。指でつまんでも、体はよじられた。それから……[元カノの名前]のお腹に触れているもの。ボラーのそれが熱く硬くなっていくのを、鼓動が打つたびに感じていた。
彼は紅潮しつつ、少しだけ不機嫌な表情。
ふたりは互いの顔を見ている。
彼の手が[元カノの名前]の脚に置かれる。
指を滑らせて内腿を伝う。
徐々に、最も敏感な所へ近づく……彼女は見つめあっていられず、しかし、ボラーの片手が顎に触れ、顔を背けられなかった。
瞳。
視線は、体を巡り、指先をぴりぴりとさせる。