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ドリルの元鞘(R18)

第5章 同・衾


 髪を乾かす。
 古びたドライヤーは、少しだけ焦げた匂いがする。

 先にいただいたお風呂。「上がったら栓ぬいといて」と言われたとおりにし、ふわふわのバスタオルで雫を拭った。借りたパーカーは少しきつい。お風呂どうぞと告げると、擦れ違いざまに「ちゃぁんとあったまったか~?」後ろ髪をわしゃわしゃされた。

 シャワーをはじく浴室床面の音が断続的に聞こえる。
 髪を乾かし終え、借りた櫛を元の場所に戻そうとしたら、長さの違う2本の髪が挟まっていることに気づいた。

「うっわ! さむ!?」
 風呂上がりのパンイチボラーが叫ぶ。
「エアコン代もったいなくない? どうせもう寝るだけでしょ? ほら、服着てお布団に入れば大丈夫だし」
「いやいやいやいや……」
 彼は視線を逸らし、髪を耳にかけ、
「服、それしかねーんだけど」
 ついでに言えば、布団もひとつ。

 エアコンのリモコンは電池が切れた。あまりにも都合の良し悪しを感じずにはいられないところ、彼は「暖房をガンガン利かせりゃソファで寝られたんだけどなぁ……」とばつが悪そうに言い、消灯した。そして同じ布団に入った。
 布団が狭い。
「布団が狭い」
「ごめん」
「そういう意味じゃないんだって。ああもう、この話終わり」
 ふたりは正しく仰向けの姿勢で、まっすぐに天井を見据えていた。
 静寂。何分過ぎただろう、けれども、目は冴えている。けれど、けど……。

「へっくし」
 くしゃみ。
 微睡んでいたことを知り、そして彼の体があちら側を向いていることに気づく。
 小さく「っはぁ~、さみぃ……」と呟く声、もぞもぞと動き。
「ボラーくん」
「ん、悪い。起こしたな。ま、あと10時間もすりゃあったか……」
 温める。今ここで温める。
 細い線を、柔らかな線で包みこむ。
 数秒こわばった彼の体は、観念したように緩やかさを持った。
「はは! こりゃいいや。湯たんぽみたいなもんだな。いや、この場合はオレが湯たんぽか? ……おい[元カノの名前]、え、寝たの?」
 香る。
 布団から、髪から、首筋から。
 香りがする。
 呼吸の乱れを隠すため、息を止める。
「[元カノの名前]? ありがたいんだけどさ、腕きついでしょ? オレも寝にくいし無理すんなよ。……聞いてる?」
 振り向いた彼。
 ふたりの距離はあまりにも近くて。

 見つめあう。
 ただただ見つめあう。
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