第3章 咆・哮
「ひさしぶり」
視線と視線。
間。
間。
そして間。
「あ! またそんなん食べてる、ダメだってさぁもう」
靴を脱ぎ、玄関からタンタンタンと居間へ入る。居間以外にトイレ浴室キッチンしかない部屋。
「あ゛~……なんで、いやもう、ツッコミが追っつかねえ~。もうさ、[元カノの名前]黙っといて」
「ごめん」
「おーおーもっと謝っとけ、謝れるのはいいことだぞ~」
「ごめんなさい」
「うんうん! よしじゃあ帰ってよし」
「ごめん」
「……」
「……」
バラエティ番組から流れる、ピン芸人の無駄に声と体を張ったネタが辛うじてその場を保たせていた。
「はぁ。わかったから。とりあえず飯食べる? 夕飯、もう食べた?」
「ありがとう。食べる」
「沸かしてくるからちょっと待ってて」
トントントンとキッチンへ行く彼。
何度も見た華奢な後姿。
「わけわかんねーなぁ」
ヤカンに語りかけても返事はない。
別れてから、時間が経っている。とても長い時間が経った。
あの酷い破局。勘違いと擦れ違い。共にいるだけで楽しかった頃。出逢った時。そうやって思い返していくと、すっかり忘れていた過去の出来事がはっきりと脳裏に象りを持った。
そしてとりわけ鮮明に蘇るのは、最後にこの部屋でふたり、あの時。
ヤカンが鳴声を上げている。
耳を劈く。
彼は動けなかった。
[元カノの名前]に、抱きしめられていたから。