第2章 Who are you
「なんか、すいません。記憶をなくしてるみたいで…あなたの名前を教えてくれませんか?わたしがどうしてここにいるのかも…」
そう言い、気遣うように笑みを浮かべたひなに心臓が氷のナイフで貫かれたような気持ちになった。
ああ…。
この顔を知っている。
ひなに初めて会った日に彼女が自分に向けたその久々の笑みに、ローはああ、目を覚ます前のことはなかったことになったんだ。と思ってしまった。
「俺はローだ。お前は…」
ここからどう言おうか。
どういうのが”正解”なのだろうか。
彼女の身になんのトラブルもなく、記憶をなくすなんてことがなかったら、たしかにローとひなは今頃恋人同士になれたはずだった。
彼女が自分に言ったことが脳裏に蘇る。
『生まれ変わっても、わたしのこと好きでいてね』
『当たり前だ。何を言ってやがる。絶対に死なせねぇ…』
血だらけの彼女は震える手でローの手を握りながらそう言った。
『ふふっ嬉しい。わたし、ほんと、ほんとはね。ロー、ローのこと、すき、だったよ。』
力のない笑顔で彼女はローにそう言った。
たしかにそう言った。
好きだとひなはたしかにそう言った。
絶対に愛してる女を殺したくなかった。
助けたかった。
ひなが目を覚ました時夢じゃないかってくらい嬉しかった。
(なぁ、これからは俺たち…)
「ここ、は…どこで。あなたは、誰、なんですか…」
雷が落ちたような感覚だった。
受け入れたくない現実をじわじわと理性が理解していく。
やっぱりダメだった。
「お前はここの海賊船の船員で俺の、仲間だ」