第5章 10億円強盗殺人事件
家路に帰る途中、ふと目についた居酒屋で夕食を食べることにして店内に入る。
黙々と頼んだものを食べていると、別の席から話し声が聴こえてくる。
「なあニュース見たか?喰い荒らし事件」
「見た見たこわいよねえ。ライオンでも逃げたのかな」
「怖い。やだー」
男性1人と女性2人組がわいわいと騒いでいる。その3人の声に耳を傾けながらお茶を飲む。
「世間では鬼事件って言われてるらしいよ」
「そういえば私アメリカに留学してた時、アメリカではグールって呼ばれてたよ。しかも、アメリカの方が日本よりも多いんだって」
「えー、里帆やめてよー」
「ははは。ごめんごめん」
「もー」
スマホで時刻を確認すると22時。
もうそろそろ帰ろうと腰を上げた。
毛利探偵事務所の階段下で待っていると、蘭が嬉しそうに下りてきた。
「天月、お待たせ」
「全然待ってないよ」
「もお、おしゃれしてきてってあれほど言ったのにー」
「あははは。やっぱり動きやすいほうがね」
「もお、しょうがないなあ。じゃあ行こう」
「そうだね」
恵理香と蘭がきたのはスイーツバイキング。
恵理香の向かい側に座る蘭のトレイには、ケーキが山のように乗っている。
あんな細い体で山盛りのケーキが入るのだろうか。
「…………」
じっと見つめていると蘭と不意に目が合い、急いで視線を逸らす。
無言で食べていると蘭に声をかけられて、口に運ぶケーキが止まる。
「どう?美味しいでしょお」
「……うん。美味しい」
「よかったー」
嬉しそうに微笑む蘭に笑みを返した。
……
ケーキバイキングの店を出てぶらぶらと歩いていると、急に雨に降られてしまい近くの軒先で雨宿りをする。
垂れ込める空は灰色で重々しい。
じっと空を見上げて地面に落ちる雨の音を聞いていた。ふと隣に目をやると、蘭は不安なのか眉間にしわをよせている。
「……あはは。天気予報なんて見てなかったから、カサ持ってこなかったよ」
蘭の悲しげな表情に居た堪れず声を上げてみる。
「ふっうん。私も全然見てなかった」
「蘭どうしたの?なんかあった?もしも虐められてんなら、ウチがそいつらぶっとばすから!」
焦り出す恵理香に蘭は目を瞬かせてくすくすと笑う。
「ううん。ありがとう天月」
「う、うん」