第5章 10億円強盗殺人事件
真剣にテレビを見ていると、向かいからくすくすと笑い声が聞こえた。
目を瞬かせながら首を傾けると、女性が面白そうに笑う。
「すみません。あなたがあまりにも真剣に見ていたものだから」
いつの間にか運ばれていたココアを急いで飲む。
「アッツ!!」
「ははは」
喫茶店を出て少し歩いたところで後ろから声がかかる。
「あの、お名前を聞いても?」
「はい。相良天月です」
「私は、勇(いさ)です」
「はい」
「……あの…………相良さん?」
「はっっっはっ!!」
強く路地の壁に体を打ち付けて血を吐く。
彼女に殴られた右頬と打ち付けた場所が痛い。
「あらあら油断はだめよ??相良さん」
俯せの体を半身起こして攻撃してきた相手を見る。
「い、勇さん?どうして……」
「あら?私は、世間を騒がせている鬼よ?可哀想。あなたは生きながら恐怖したまま、私に喰われるんだから」
向かってくる彼女を避けて奥へ奥へと走り出す。
「あら?まだ動けたのね?あなたのような威勢の良い人間は大好きよ」
笑いを含んだ声がすぐ後ろから聞こえたその刹那、強い力で蹴り飛ばされて壁に叩きつけられる。
「うぐっ」
目の前がチカチカと点滅する。
「うがあああ!」
痛みを耐えながら砕けた壁のかけらを鬼の腕に突き刺した。
「あらあら良い悲鳴。でも残念、良い攻撃だけど私には聞かないわよ」
腕に突き刺した傷がすごいスピードで治っていく。
ミシミシと悲鳴を上げる骨に鞭打って蹴りを彼女の顔面に叩き込み、私を掴んでいた彼女の手が緩んだ隙に地面を這いながら逃げる。
「やばいやばいやばい!なんだあれ!」
(痛い痛い。ものすごく痛いっ!!刀で刺された時よりも、刀で斬られた時よりも、銃で撃たれた時よりも、毒を受けた時よりも、気で突き刺された時よりも。痛い死ぬほど痛い!!)
「追いついた」
弄ぶような陽気な声が頭の上から降ってくる。
足で踏みつけられる直前、水のような飛沫が頬にかかり彼女の足が真っ二つに斬れた。そして私は誰かに抱き抱えられる。
「よく耐えたな、俺が来たからにはもう大丈夫だ」
静かで平坦な声が耳に響く。
「貴様は滅殺者か、くっいまいましい」
「戯言はすんだか」
彼は向かってくる鬼に刀を振り下ろした。
「……」
彼女の攻撃を後ろへ飛び上がり回避して、恵理香を地面に下ろす。