第4章 大都会暗号マップ事件
マンションのドアの前で立ち尽くす。
チャイムを押そうとするが、なかなかボタンに手を伸ばせずにいた。
「……」
次の原作での黒の組織への改稿はいつだっただろうか。全く思い出すことができない。
確か、灰原哀の本名は宮野志保。
それならば、宮野明美の本名はなんだっただろうか?
思わず頭を押さえる。
考えれば考えるほどに頭痛は酷くなる一方で、なんのヒントも閃きも起きることはない。
頭の痛みに顔を歪ませていると、不意に目の前のドアが開き、その部屋の家主が顔を出す。
「天月ちゃん?どうしたの!?」
「あ、すみません。今日は木曜日じゃなかったですよね」
急に来たのも関わらず彼女は温かな笑みを零す。
「いいわよ。入って」
私は戸惑いながら足を踏み出した。
「広田さんすみません。木曜日でもないのに来てしまって」
「気にしないで私も暇だったから。あっそうだ、今日は泊まっていって。それで明日ショッピングへ行きましょう?」
「……ええそうですね」
屈託のなく微笑んだ広田は何かに気づいたのか声を上げる。
「ごめんなさいね、お茶お茶!」
急いで立ち上がりキッチンに向かう広田さんを見ながら静かに微笑んだ。
「ごめんなさい。今お茶を切らしてて、コーヒーしかないの」
「あ、大丈夫です」
差し出されたコーヒーをすする。
「………あの、広田さんは……彼氏とかいないんですか?」
「ああ……前に別れちゃったの。私騙されてたみたいで」
「すっすみません!?」
思わず体を跳ねさせる。
「ううん。大丈夫、もう終わったことだから。天月ちゃんも変な男に騙されないようにね」
「え、あはあ」
クスクスと笑っているがどこか悲し気にも見えた。
風呂から上がり、テレビを見ている広田さんを見つめる。
何故か違和感を覚えて仕方がない。
一体なんなのだろうか、とても大事なことだったようにも思う。
「?」
とうとう私の視線に気づいた広田さんは、こちらを向く。
「あらもう上がったのね」
「は、はい」
近づいてきた広田さんに目を泳がせていると、彼女はすれ違い様に言う。
「本当に気にしないでね」
「は……はい!」