第3章 小さくなった名探偵
不安げに言う言葉からは諦めが感じられる。その違和感に内心首を傾げながら返事を返す。
「うん。もちろん」
「ぜってえかとうな。と言っても俺がいたら勝てねーかも」
「ん? なんか言った?」
「いや、なんでもねえよ」
にひりと笑う諸伏に力強く頷く。
「俺、一度も勝てた事ないんだ。中学生の時も高校生の時も、だからオレ絶対勝ちたい!」
「………きっと叶うさ」
分かれ道に差し掛かり同時に立ち止まる。
「本当に走って帰るのか? もう暗いぞ。危なくないのか?」
「これも体力作りの内だよ」
「なるほどな。頑張れよ。あ、天月連絡先教えてくれないか?」
恵理香はショルダーバッグの中を探りケータイを差し出す。
「て、俺がやるのかよ。まあいいけど……」
赤外線で交換してケータイをカバンの中に入れ、お互い背を向けて歩き出した。軽くランニングしていると家の中から叫び声が響き渡り足を止めた。3秒ほど沈黙してドアに駆け寄りチャイムを鳴らす。
「どうしましたか!?」
ドアを叩き出て来るのを待つが中はシーンと沈まり帰っていてなんの音もしない。悪いと思いながらもドアノブを回し開け室内に飛び込んだ。
「大丈夫ですか!」
部屋の入り口に座り込んでいる人に声をかけると、震えながら前方を指差す。それを目で追えば、そこには刃物で背中を刺されただんせいが倒れている。
すぐさま男性の首元に指を当て鼓動を確認するが、残念な事にもう鼓動は感じられない。ケータイを取り警察に連絡する。
「お疲れ様です。男性の死体発見、住所は……」
電話を終わらせて後ろごと身体を向けると、女性は涙を流していた。
「警察もうすぐ来ますからね」
女性を廊下に連れ出し死体が彼女の視界に入らないようにする。
「すみません」
「いえ、気にしないでください」
数分後サイレンを鳴らし警察が到着する。
「警視庁の目暮です。お話をお聞かせいただけますかな?」
警察手帳を見せながら彼女と私に告げた。
「はい。私は藤原美和子です。家に帰ったら旦那がこんな」
旦那の姿を思い出したのか両手で顔を覆い涙を流す。
「なるほど。それで君は?」
「はい。悲鳴が聞こえたのでこの家に失礼ながら入らせていただきました」
「ふむ。なるほどなあ」
硬い顔をしながら目暮は頷きさらに問いを投げる。