第3章 小さくなった名探偵
バレー帰りの途中雲行きが怪しくなりぱらぱらと落ちてくる雨を気にせず傘もささずに歩いていると、本格的に雨は強まってアスファルトに突き刺さる。
ぼんやり落ちてくる雨を見ながら歩みは決して止めない。
「どうしたの? こんなずぶ濡れで」
自分に雨が当たらない事が不思議で上を見ると目の前が黒い傘で覆われている。
顔を正面に戻し右横を見ると髪の長い綺麗な女性が立っていた。
(あ……この人)
何も発さない私を見て顔を曇らせている。
「どうしたの? 傘もささずに」
「貴女こそずぶ濡れの人に声をかけるなんてナンパですか、もしくは可哀想な子猫だと思ってるんですか?」
「あら、違うのかしら」
「可哀想な猫ではなく、血に塗れた鬼かもしれませんよ」
「大丈夫よ………」
その言葉に数秒目を見開いた。
暖かなシャワーを浴びて湯船に入る。そんな彼女の瞳は胡散臭そうな瞳の色をたたえていた。細い目をより細めながら口を尖らせる。
「相良さん、服ここにおいとくわね」
「ありがとうございます」
さっきからずっと考えていた。全く聞き覚えのない名前だが見覚えはある。自分の記憶能力に期待はしていないが気になって仕方がない。
そういえば藍ちゃんに姉がいた気がする。
「まっまさかね」
吹き出すようにして言う。
彼女は黒の組織の人なので一般人とはあまり関わりたがらないはずであり、自分とは関わらせないはずだ。それに名前も違うはず。
(まあウチには関係ないけど)
お風呂から出て髪を拭きリビングへ行く。
「ありがとうございました」
「いいのよ。気にしないで」
ニコリと笑う彼女に合わせるようにして笑みを作った。
「今日はもう暗いし泊まっていって。女の子が1人夜道を歩くのは危険だしね」
食事中彼女が私の顔を見てくる。
「それで? なんで傘もささず歩いてたの?」
「傘持ってなかったからです」
「ふーん。でも、風邪ひいちゃうわよ?」
「大丈夫です」
「…そう。あ、そうだ相良さん提案があるんだけど……相良さん毎週木曜日私の家に来てくれない? ほら私1人暮らしだし遊びにおいで」
「え」
「私話し相手がいなくてね。よければなんだけど」
「まあ、私が暇で暇でもう死ぬってなった時になったら行かない事もないですけど」
「ふっ。じゃあ決まりね♪」
「暇だったら来ます」
「うん。待ってる」