第3章 小さくなった名探偵
「……」
今日は電車に乗って四つ向こうの駅まで来た。歩いていると河川敷が見える。河川敷を見下ろすと男性の後ろ姿があって暇なので話しかける事にした。
「こんにちは」
男性に声をかけるが聞こえていないのか振り向かない。
男性の横に座りもう一度声をかける。
「こんにちは」
驚いてこっちを見た顔は面白いが、彼は辺りをきょろきょろ見て誰かを探しているようだ。
「貴方に言ったんです」
そう言うと沈黙が流れる。
「私に何か」
眼鏡越しの瞳が鋭く光る。
「失礼、ただ話しかけただけです。暇だったもので」
「そうなんですか」
彼は納得して微笑む。
特に話すこともないので流れ行く川を見ていた。
「お名前をお伺いしても?」
不意に投げかけられた言葉に右横の彼を見る。
「私は、風見裕也です」
「さ、相良天月です。宜しくお願いします」
差し出された手を掴む。
「平和ですね」
「そうですね」
「でも、この平和も誰かの犠牲に成り立っているのかと思うと悲しいものです」
風見はそんな言葉に驚きじっと見る。
彼が今どんなふうに考えているのか手に取るようにわかる。そんな風見に薄く微笑み忠告した。
「そんなんでは気づかれてしまいますよ。貴方が警察官ってことに」
一瞬驚いたかと思えばおどおどしだす。
(……だっだめだこの人わかりやすい)
「も、もしかして貴方も同僚なんですか」
「へ?」
真剣な顔をしながら右手を握られる。
「どおりで雰囲気が違うと思ったら」
「いいや違うんです! 知り合いにいるんですよ、公安警察の人…が………っあ」
やばい言ってしまったと思った時には遅く顔が曇る。
(いや大丈夫だろう。この人公安じゃないだろうし………)
「え、そうなんですか? 実は私も公安なんです」
さも嬉しそうに語るこの男性に恐ろしさを覚えた。ちなみに手はまだ握られたまま。
「知り合いはどなたなんですか?」
「え、ええ!」
(ま、まずい、名前言っても知らないだろうし、その前にいないだろうなあ、ど、どどっどうすんだこれ! めちゃくちゃ期待の眼差しで見てるし、これ言わなかったら絶対怪しまれるだろうなあ)
「れ、零ですね」
「え、降谷さんと知り合いなんですか!?」
(やらかしたー、ある意味ありがたいけど今は全くありがたくねえー)