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虎の姉は猫となるか

第1章 探偵社


02

「にゃぁん」

武装探偵社の入り口で鳴いてみるけど誰も反応しない。うーん、失敗した。ネズミにでもなれば良かったかな。
鼻先でドアを閉められ国木田という男に締め出された私は無害な猫を装って中に入ろうと、出入りしている人に擦り寄ってみたけど煮干しくれたり牛乳くれたりするけど中には入れて貰えないらしい。
一人、二人と共に入ろうとするたびにダメだと言われて扉を鼻先で閉められてしまい、感情に素直な耳と尻尾は不機嫌さを隠せもしない。
どうしたものかと扉近くに座り込んで見ているんだけど、方法としてはいくつかあれどとてもじゃないけどあとの始末が面倒過ぎてやる気になれない。
仕方ない、出掛けるのを待ってそれに合わせて変身をし直そうか……そう思った時、ひょいっと身体が持ち上がって私は思わず何事かと振り返った。

「どうした」
「にゃぁん」
「……中に入れて貰えないのか。おいで」
「にゃぅ?」

見上げた先には落ち着いた雰囲気の渋い和装のオジサマが居て、顔だちが整っているだけに厳格な雰囲気が漂っている。
無表情に見える彼は私をじっと見た後、その力強い瞳を柔らかく緩めるときちんと猫抱きをして私を抱え直し探偵社へ入っていく。
あれ? と思った時にはもう探偵社の中に入れていて、猫の私を見て国木田が眉をしかめた。もちろん、猫が私だとは気付いていないだろうが、動物はダメだと言い含めて煮干しをくれたのは何を隠そう国木田だ。
面白そうな表情をして中に入れようとした背の小さいお人を叱りつけていたから、飼えないから拾うなという事なんだろう。
道理は通っているから文句は言えないが、先ほどの弟と私への仕打ちを思い返すととてもじゃないがまだまだ許せない。
じろりと睨みうぅっと唸ると私を抱いている男性の手がゆるゆると背を撫でる。その柔らかな動きに心地よくてついつい喉を鳴らしてしまう。

「国木田、彼女も連れて行け」
「はっ?」

彼女、そう言って差し出された私を凝視した国木田は、目を真ん丸にして見てくるのをじっと見返していたら理解不能という表情で私を抱き上げたままの男性を見た。
なるほど、この人がこの探偵社の上の人……。釣られて仰け反る様に男性を見上げた私を、男性は無理矢理国木田の腕に抱かせるとそれ以上何も言わずに社長室へと入って行った。
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