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虎の姉は猫となるか

第1章 探偵社


唐突に止まった車は故障かと思ったが、僅かな段差とブレーキのタイミングだったらしい。
女性が声を掛けるとサイドブレーキを引いた国木田が声を掛け、全員が車を降りる。私も女性の膝から地面へ飛び降りると、耳をそばだてた。
海の傍らしく波の音が耳に心地よく、空を見上げればすっかりと降りた夜の帳に煌々と月が辺りを照らしている。

「おい、行くぞ」
「みゃぅ」

思考と動きが止まった私に気付いた国木田が、声を掛けてくる。持ち上げてくれる気はないらしいが、置いていくつもりもないらしい。
昼間、私を連れて行くように告げた男性はよほど逆らえない人物なのか、思わずまじまじと見上げれば非常に嫌そうな表情を見せて踵を返して歩いて行く。
追いかけて駆け出すと唐突に聞こえてきた鈍い打撃音に身の毛がよだつ。

「みゃーっ!」

――グオォオォォォッ!
――ドォッ!

人間の耳でも聞こえたのか、風に乗って聞こえたその音に私が叫ぶのと探偵社の人間たちが慌てるのは同時だった。
しかし、太宰は強かったのか倉庫に辿り着いた頃には音は止み、敦が地面に突っ伏して倒れていた。
慌てて駆け寄ると上から彼らの会話が聞こえてくる。

「全く、次から事前に説明しろ。肝が冷えたぞ。おかげで非番の奴らまで駆り出す始末だ、皆に酒でも奢れ」
「なンだ、怪我人はなしかい? つまんないねぇ」

女性のそんな言葉を聞きながら敦に駆け寄ると、すぴすぴと寝息を立てて寝入っていてホッとする。
敦をどうするのかという国木田の問いかけに太宰はあっさりと社員にすると答えて、振り向くと一緒に来た四人が固まって、次の瞬間には倉庫に響く大きな声が重なって吐き出された。
私も固まったが、ひとまず敦の身が保証されるなら良いかと、気持ちよさそうな寝顔の頬をぺろりと舐めて擦り寄る。
そのまま傍に居ると近づいてきた太宰と目が合い、何かに気付いたような表情を見せたので誤魔化すように足元に甘えれば何も言わず腕を差し出された。
彼がどういう力で持って敦を止めたのかは判らないけれど、私は差し出された腕に飛び乗って伝い歩き、その肩に落ち着くと彼は文句を言う国木田をあしらいながら探偵社の事務所へと戻る為、車に向かって歩き出した。
敦が目を覚ますのは翌日の話で、私の能力がバレて国木田とまた一悶着起こるのもその後の話である。
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