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虎の姉は猫となるか

第1章 探偵社


01

「でも、やっぱり姉さんはここに残ってて」
「嫌よ、傍に居るって言ったじゃない」
「ダメだよ。だって人食い虎だよ? 姉さんが食われたら僕は……」
「あら、でもそれはほら、そこの人が守ってくれるんでしょう?」
「ごめん。いくら僕でもさすがに二人も同時には守れないんだよね」

飯屋の前、それまで口を出さなかった私が弟について倉庫に行こうとすると、不安そうな顔をした弟が唐突に言葉を発した。
優柔不断な気のある弟が、顔を真っ青にしながらも私に言ったのはこの場へ留まることだった。
私は反発したけど、説得に使った男性がさり気なく拒否したので、結局何度か押し問答をしたけれど弟の懇願を聞かざるを得なかった。
私ってば弟に甘いな……なんてことを思いながら倉庫に行くという弟と太宰と名乗った男性を見送ってしばし、人を投げるまでした男性は漸く横に立つ私に気付いたらしい。

「で、お前は誰だ」
「今更聞きます? それ……」

尋ねられて、じっとりとした目つきで見上げれば神経質そうな表情と手つきでかけていた眼鏡の弦を持ち、位置を直しながら睨みつけてきた。
残念ながら、そんな目線は何も怖くない。私はわざとらしく大きなため息をついてやった。
ぐっと言葉を詰まらせたところを見ると存在自体を忘れてくれていたらしい。
はっと鼻で笑いながら口角を持ち上げると横に立った男に身体ごと向き直って口を開く。

「中島天音、先ほど太宰さんと一緒に倉庫に向かった中島敦の姉です」
「貴様っ……」
「弟を押さえつけた挙句にそれを助けようとした私を床に投げつけたのに、覚えてない貴方が悪いんじゃないの?」

文句ある? と睨みあげれば、さすがに床に叩きつけたことは覚えているのか悔しげな表情で黙り込んだ。
怒りか、屈辱か、どちらにしろ私に対しての良い感情など浮かんでいないだろう様子で、それを堪えるように握りしめた手は硬く、抑えきれない様に震えている。
それを眺めながら反応を待つと、暫くして深い、深いため息を吐いて顔を上げた男性は眉間に皺を寄せた表情で再び私を睨みつけてきた。
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