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小鹿の隠れ家

第1章 恋愛に至る道(出会いから恋に辿り着くまで)


バロンの影に隠れることも出来ず、布団は重く容易にその場から逃げ出すことも叶わず再びパニックに陥りそうになった佳乃子は引き攣ったように息を吸い込み悲鳴も出ないまま大きく目を開けて固まった。

「ひっ……?!」
「あ! 目が覚められましたか、佳乃子様!」

佳乃子のその小さな息を飲む音に気付いたらしい。こんのすけが上から顔を覗き込むようにして前に出てきたおかげで、佳乃子の視界に入った男性の姿が遮られ僅かばかり思考が戻ってきた。
問い掛けにコクコクと頷く物の、驚きすぎて声がまともに出すことが出来ずじりじりと布団から這い出てその場から離れようと動き出す。
こんのすけには佳乃子のその行動の意味が解らず軽く首を傾げるだけだったが、佳乃子は自分の逃げたいという欲求を上手く説明することが出来なかった。
とにかくこの場から逃げ出したい、人から離れたい、そればかりが先に立っていて相手がどういう人物か等気に留める余裕もないのだ。
視線をこんのすけだけに向け、視界をそのもふもふで一杯に埋めながらじりじりと動いていた佳乃子に、不意に救いの手を差し伸べたのはまさかの逃げようとしている原因である男性だった。
ふわりと空気が動いて、少し甘いようなスッキリするようなお香や香水らしき香りが佳乃子の鼻孔をくすぐるのと同時にその視界が良く知った黒に埋め尽くされたのだ。
むぎゅっという擬音語が飛び出そうな勢いで佳乃子の視界を黒に埋めたソレは、つい先ほど目覚める前から探し回っていたバロンのお腹で違いなく、遠目に離して全体を見たわけでもないのに確信を得た佳乃子はそれにそのまま抱き着いてぎゅぅぎゅぅと顔を埋めて打ち震えた。
少しだけ慣れない香りがするが、紛うことなきバロンの手触りに力一杯抱き着いてから漸く人心地ついてほっと息を吐き出した。

「佳乃子様?」
「あ……ご、ごめんなさいっ! わ、私……」
「突然倒れられまして、どこかお身体の具合が悪かったのでしょうか?」
「い、いえっ! そ、そのっ……お、男の方が……に、苦手、で……」

バロンの影に隠れ、更にこんのすけの影に隠れながらチラチラと佳乃子が見上げたのは何も言わず座っている男性だった。
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