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小鹿の隠れ家

第1章 恋愛に至る道(出会いから恋に辿り着くまで)


03

佳乃子はどこからか聞こえる耳慣れない声に怯えて持っているはずの猫のぬいぐるみ、バロンを探して手を伸ばしていた。
腕を伸ばしても慣れた気配が触れることはなく重たい布団らしきものがのしかかってきている状態で、徐々にはっきりとし始める意識に声が言葉として届き始める。

「……で、……なのかい?」
「はい。……が、……なのだと……して」
「ふぅん……」

とぎれとぎれに聞こえる言葉は、何かを確認するような物で佳乃子はまだ重たい瞼をそのままに心の中で首を傾げる。
耳慣れない声ではあるものの一つは落ちた底に辿り着いた直後に聞いた、こんのすけと名乗った狐の物であることには気付いた。もう一つの声は全く解らない。
そう気付いて漸く自分の身に起こったことを思い出してここがどこだろうという疑問が思い浮かんだ佳乃子は薄らと目を開けようと試みた。
知らない場所を視界に収めるのは非常に勇気が要る行為である。せめて、バロンが腕の中にあればと思いながら再び手を左右に伸ばそうとするが重くて思うように動かない。
徐々に焦り始めた所で、ふわりと佳乃子の頭を撫でる手があった。佳乃子はその感触にピタリと思考もバロンを探す手も何もかもを止め、その動きを追いかける。
何か、繊細な物をそっと擽る様なそんな柔らかさと温かく安心できる温もりを感じ、佳乃子の焦っていた思考は徐々に落ち着きを取り戻す。

――なんだか、かあさまみたい……。

ふわり、ふわりとどこか労うような動きが繰り返され、それが途切れた所で佳乃子は不意に重かった身体が軽くなったような気がしてゆっくりと目を開けた。
目の前には見知らぬ天井、胸元へと視線を移せば今ではあまり見ることのない日本独特の布団、そのまま声が聞こえていた方向である横を向くと黄色と白のふさふさした足と黒いズボンに包まれた人らしき足が正座をしているのだろう膝頭が見える。
佳乃子はゆっくりとそれらを辿ってその足の持ち主を視界に入れようと視線を上げて……先にバロンを探し当てなかったことを後悔した。
優しい手が誰の物かは判らないが、とりあえず自分が苦手とする中でも特に避けたい男性が目の前に居る事だけは理解出来た。
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