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小鹿の隠れ家

第1章 恋愛に至る道(出会いから恋に辿り着くまで)


ひょっこりと真っ黒な猫のぬいぐるみ、バロンの影から顔を出してまだまだ薄目の状態で辺りを伺ってみると黄色と白のふっさりとした何かが視界を横切って揺れている。
そっと手を伸ばしてみるとひょいっとそれを避けるように動くそのふっさりとした物に、思わず薄目を見開いて追いかけると漸くその全貌を佳乃子は把握することが出来た。
尖った耳、まるで張子の置物か神社の駒狐の様な様相で少しだけぽっちゃりとしたデフォルメの狐が確かに佳乃子のすぐそばに鎮座ましまして様子を窺っていた。
表情は変わらない物の、雰囲気は大丈夫かと心配そうにしているのが伝わってくる。

「こんのすけさま、ですか?」
「はい、こんのすけです。佳乃子様でよろしいですか?」
「は、はいっ! わ、私こそ申し遅れました、宮島佳乃子と申します。こ、こんのすけ様はその、そのふっさりとしたお尻尾は触ることが出来るのでしょうかっ?!」
「これはご丁寧に……って、えっ? あの、佳乃子様?」
「お尻尾は、いいえ、お尻尾だけでなく、その胸元のふっさりとしたお毛も、むしろ抱っこさせて頂いてもっふもっふと撫で回させて頂きたいのですがっ!!」
「……えっ? ちょっ、か、佳乃子様っ?! まっ、わっ、ぎゃあっ!」

佳乃子は、こんのすけの姿をはっきりとらえるのと同時にその容姿に釘付けになった。
動物が好きな佳乃子にとって、こんのすけのその容姿は非常に魅力的なのである。しかも、こんのすけは言葉を話し、佳乃子との会話が成り立っている。相互理解が求められるのだ。
常日頃、そのもふもふへの情熱はどこへもやり場がなく只管部屋でぬいぐるみをもふっていた。
佳乃子にとってはそれもそれで楽しい物ではあるがぬいぐるみは生き物ではない、当然だが。温もりも何もなく、ただ自分の体温で温まっていく様が大変虚しいと感じていた。
かといって、人間は怖いモノと認識している佳乃子にとって必要最低限以上に他人と触れあうことも大変ストレスを伴う行為である。
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