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小鹿の隠れ家

第1章 恋愛に至る道(出会いから恋に辿り着くまで)


02

「きゃあぁぁぁっ! ぐっぅ……」

落ちていく恐怖に悲鳴を上げていた佳乃子は、落ち切った果てで背中を強く打ちつけて息を詰まらせた。
幸いだったのは、落ちた先が地面でも硬いアスファルトやコンクリートでもなく、落ちる勢いが未知の空間を抜けた瞬間失速したことだった。
息が詰まる思いはしても痛みはそこまでではなく、体育の授業でやった柔道の受け身を無意識に取ったせいか怪我もしなかった。
ただ、恐怖に支配された佳乃子にはそんな幸いは何の救いにもならなかったのだが、周囲はそれを待ってくれるほどに優しくはないようだった。

「佳乃子様ですか?」
「ひっ?! だ、だれっ?!」

そこがどこか、という考えに至るよりも早く掛けられた少し高めの声に佳乃子は悲鳴を上げる。
硬く閉じていた目の瞼に更にぎゅっと力を入れると猫のぬいぐるみに顔だけでなく身体を隠そうともがきながら、落ちたその場で起き上がることも出来ず固まる。

「申し遅れました、私はこんのすけと申します。この場の案内人を務めさせていただきます。お父様よりお聞きしてはおりませんか?」
「こ、こんのすけ、さま……?」
「はい、管狐のこんのすけでございます」
「き……つね、さん?」

猫のぬいぐるみの下に隠れるように身を縮ませる佳乃子を、どういう目で見ているのかは判らないが落ち着いた雰囲気で返事が返ってくることに幾分かパニックに陥った頭が冷静さを取り戻してくる。
父親の話が出て、反射的にビクリと肩が揺れたが確かに落ちる寸前で辛うじて聞こえた聞き覚えのある単語に思い当っておうむ返しに問い返すと頷かれた。
更に、管狐という言葉に動物が好きな佳乃子は少しだけ心惹かれて恐る恐る目を開けることにする。
うっすらと開いた瞼の隙間は、硬く閉じすぎていたせいでぼんやりとしか物を映さない。周囲は夜なのか夕暮れなのか、昼間の様に強い光は感じず更にもう少しだけ目を開けると真っ黒な何かが見えた。
それをよくよく見つめた佳乃子は、それが自分が抱きかかえて離さない猫のぬいぐるみ、バロンであることに気付いて漸く少しだけそのぬいぐるみを横へずらすことにしてみた。
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