第10章 春休み(P137参照)
三月某日
世間で言う春休みに入ったこの時期、山も街の木々も春を迎える準備を始め、枝先には至る所に蕾ができている。
この麗らかな日に外に出ないのは勿体ない。だがしかし、こんな事になるとは思わなかった。
「どうしようか」
「これの対処の仕方知らない私に聞かれてもね...」
「それもそうだな。取り敢えず玲と茜の所に行くぞ」
約束で男装させた熊ちゃんと一緒にベンチで話していたら、案の定女子に囲まれた。俺の男装スキルがレベルアップしているのを感じた瞬間でもあったが、それはこの際どうでもいい。
集合場所を変えて二人と合流する。
「玲!茜!」
「二人とも悪ぃな。集合場所変えちまって」
「熊ちゃん、明希ちゃん。大丈夫よ。理由は何となくわかってるから」
「熊谷先輩、男装してても人気が凄いですね〜!」
「うるさい茜」
「取り敢えず逃げるぞ。友子手筈通りにな」
「OK」
熊ちゃんのその言葉を合図に、それぞれ相手を横抱きにして走る。
「わぁ!先輩速い!」
「トリオン体の方が速いぞ」
「熊ちゃん凄いわ!アトラクションってこんな感じなのかしら?」
「うーん...ちょっと違うかな?」
暫く走り続け、撒けた所で近くの喫茶店に入る。
「「つかれた...」」
「二人ともお疲れ様」
「大変でしたね〜!」
彼女役の二人が楽しいならいいやと、俺達の心が一つになった。そう言えば急遽入ったこの喫茶店は、透がオススメしてくれていた店だと気付いた。
「そういや、この店はチョコレート系が人気だって透が言ってたな」
「師匠のオススメなら間違いないですね!どれ頼もうかな〜♪」
「玲も遠慮せずに頼みなよ」
「そうね...じゃあ、アイスココアにしようかしら」
四人それぞれが欲しいものを頼み、休憩する。運動した後の甘いチョコレートは最高だ。
「流石、透が勧めるだけあるな」
「奈良坂はチョコに厳しいからね。たけのこの里に関しては特に」
「透君、お見舞いの品もチョコレートが多いのよ」
「誕生日やバレンタインはたけのこの里をあげるのがお決まりになってますよ!」
透すげぇな。たけのこの里が好きなのは知っていたがそこまでとは...。
その後も何故か透の話が続いた。この前のチョコが凄かったとか、バレンタインチョコが過去最高記録を更新したとか、そう言った他愛も話だった。