第10章 闇 希望
ドアを開けて、土足で玄関に入る男を眺めた。自分の唇は震えている。
「や、だ、ヤナギ、私つかれてるんだよ? 手加減してよ」
背中を見せてはダメだ。触れてもダメ。今、私がしなくちゃいけないことは、パックンを逃がすこと。それ一点のみ。
「あれぐらい、ちゃんと避けろよ。忍だろ?」
くるくる、クナイを軽快に回すヤナギ。無傷だ。やりやってない。砂ぼこりがついてない。
「どうしたの? なにか用?」
時間稼ぎのために聞いた。
刀、巻物、クナイ……ぜんぶ脱衣所にある。ああ、しまった。1本ぐらい、枕元に置いておけば良かった。しかもいま、ジャージ姿で、とにかく動きにくい。
「ん? なにか用? 見たらわかるだろ。 交渉に人質は必要だと、思わないかい?」
ジリジリと笑顔のヤナギが、
私に詰め寄る。
「ヤナギ、花奏に近づくな」
パックンが私の前に立つ。私が、よろけて柱を掴んだからだ。もう、歩くのさえ、ままならない。
「邪魔すんなよ、パックン。 痛いのはイヤだろ?」
見下ろして、銀のクナイをヤナギは光らせる。
「やめてよ! パックン、カカシを、みんなを呼んできて!」
私の声を聞いたヤナギは、
三日月に口を歪ませた。
「パックン、カカシに伝言だ。 ひとりで終末の谷へ来い。 3代目に遺言書を渡してこい。 来なければ、ろ班全員の首を飛ばすと伝えろ」
はっきりと言い、目を細めて笑うヤナギ。
私は青ざめて、目を剥いた。
「……ヤナギ……? 」
なんて言った? ろ班の首を飛ばす……?
「もちろん、花奏ちゃんの首にも、ちゃんと付いてるから、安心してね」
「っ!! 」
瞬身の術を使ったヤナギが、
背中から優しく うなじを触る。
「……いや……やめ……」
私はぞくりと鳥肌が立ち、鼓動を早めた。
「花奏ちゃんの腕や足にも、手錠みたいにつけてるんだ。 もう、走れないね?」
クスクス可笑しそうに笑うヤナギ。私は、自分の身体を見た。首や足、手には、キラキラと輝く、氷の輪っかが発動していた。
足は、鎖がついたように繋がっていた。