第29章 始まり
「え」と声を出すと、軽く当たるような口付けで。カカシは口布は外している。
「ただいまのキス、してなかったから」
「う、うん」
なんだか照れくさい。八忍犬だって見てるのに隠さない。もう。
カカシが、娘の手をにぎって、家の扉を開けた。「ハイ、クック脱ごうねー」と娘の靴を脱がしていく。「クック?」「うん、クック」
「ふふふ」
なにがおかしいのか笑って、廊下を走ってリビングに向かう娘をふたりで見届けた。
「そろそろ……いいよな」
「カカシ?そろそろって?」
わたしは聞き返した。
なんだろうか。
「ん?」
「だから、なにが、もうそろそろなの?」
「んー」
ちょいちょい、と手招きされたから、近寄った。カカシは耳元で囁く。
「ふたりめ」
「え」
「オレは欲しいなーって。たくさん欲しいからね。オレ」
ニコニコ笑むカカシに思わず、「え、え!あ…」と恥ずかしくなって笑った。戸惑いが強い。
「だってさ、最近ぜーんぜんしてないでしょ。もうオレはしたくてしたくて。ね、今日は任務は楽だったのよ。夜にいっぱいしよっか」
ポンと私の頭を撫でた。「体力ありあまってるのよ。覚悟してね」
唇を重ねて、それから、優しく私を抱きしめた。
「……いつもありがとうな」
「うん。カカシもいつもお仕事頑張ってくれて、ありがとう」
ふたりでキスをしようとしたら、また娘がトコトコ足元に戻ってきた。
「パァ、パァ、コッチ、コッチ!」
ちょっと怒る娘。玄関にいるカカシのズボンをぎゅうぎゅう引っ張る姿に、ふたりで笑った。
「パパ、コッチコッチ」
「ハイハイ、わかったよ」
家族が欲しいと思った。
いつも明るくて、お母さんがいて、お父さんがいて、それから子供がいて。
夢がカカシといると
一つずつ叶っていく。
毎日子育てと
仕事で
大変。
だけど楽しいよ。
大変だけど楽しい。
お風呂からカカシと
娘の笑い声が響く。
私は台所で娘の好きなハンバーグと、それからカカシの好きな焼き魚を。
窓から見える。夜空には
雲ひとつない。星がきらめく。
今夜は満月で
柔らかく微笑むように
浮かんでいた。
ーー終わり