第10章 闇 希望
浴室から上がり、髪をタオルで拭いて、リビングへ向かった。
「花奏」
ベッドから聞こえる声に、振り向かないで、冷蔵庫を開けた。
「なに? パックン?」
私は、喋りながら、なかに入ったピッチャーを取り出して、冷蔵庫の扉を閉めた。
スーパーで買ったコップを、机の上に置く。 私が大好きなクマのキャラクターが印字された陶器のコップだ。
カカシは、いやーな顔してたけど、無視した。好きなものは好きなんだから、ほっといてほしい。
「なんで媚薬を盛られた? 敵にやられたのか?」
パックンの声は低い。トーンが落ちた声色だ。
「敵じゃないんだ、たぶん……」
クマのコップにお茶を、こぽこぽ、と入れて一気に飲み干した。 麦茶は冷たくて後味すっきりだ。美味しい。
「花奏? ちゃんと答えろ」
とことこ歩いて、近づくパックン。
私は返答に困った。なんて答えたらいいのか、わからないのだ。冷蔵庫にお茶を片付けて、静かに言った。
「……媚薬の反応は、戦闘前からあった。だから、媚薬は内部で盛られたと思う」
私はパックンを見下ろした。
みるみる表情が険しく変わっていく。
「……今日食べたり、飲んだり、したものを思い出せ。そいつが犯人だ」
きっぱりと言われ、心が沈んだ。 信じたくない。信じたくない。信じられない。
『私』を狙ったならば、たったひとりだ。私にすぐさまお茶を渡してくれた、優しくて、いつもそばにいたひと……ただひとり。
昔から知る幼なじみ。私を知るひと。
コップを握る手に力が入る。
なに考えてんの? 理解できない。理解したくない。私がどうなってしまうか、わかるはずなのに。
私がそんなに、憎いの……?
そのとき、声がした。
「花奏」
ドアから聞こえる。優しくて落ち着いた声。カカシの声だった。
「カカシ……?」
私は机にコップを置いて、ドアを見た。
なぜ、自分の部屋なのに、入ってこないのだろう?
鍵は締まっている。 鍵をなくした? まさかね。 私は不思議に思い、玄関へと歩いた。
「待て、花奏。なぜ気配を消す必要がある」
パックンが私に声をかけた、次の瞬間だった。
ガシャン!
扉の鍵が勢いよく壊れて、
扉が開いた。