第9章 闇 報告
カカシは、黙って下を向く。
誰よりも責任感が強く、ひとに迷惑をかけるのが、なによりも嫌いだった。
自分のせいで規律を乱し、仲間に負担をかけることが、なによりも許せない。人に迷惑をかけるならば、自分が我慢すればいい。
そう思って、常日頃から働いた。
ひとに頼り、迷惑をかけるのが、なによりも苦痛だった。頼るならば、我慢する。
風邪を引いても、薬でごまかした。
身体が疲れはてても、任務に出た。
徹夜続きで、ふらふらでも、決して表に出さない。平常心をよそった。
だれかに仕事を代わってもらう。
カカシにとって、ありえないことだった。
鉄壁のカカシに、だれも気づかない。ただ、パックンにだけは、いつもバレていた。
ちいさな頃から、パックンはそばにいた。だから、体調の変化をすぐに気づいた。
花奏も、
たまに顔を覗きこむ。
「働きすぎじゃない?」
と言って、心配する顔を浮かべた。
そのたびに、「問題ない」とカカシは言い続ける。
ほんとうは、「問題だらけ」だった。
仲間が大事だった。
自分よりも、
仲間が大切だった。
カカシは、一度たりとも、
仕事を放り出したことはない。
おのれを犠牲にして、毎日働いた。
自分を忍として、
誇りに思い、任務を遂行してきた。
暗部に入り
1年ほどたったときだった。
「冷血のカカシ」と、
世間から囁かれるようになった。
おびただしい 返り血を 全身に浴びても、顔色ひとつ変えずに、任務をこなした。
はたから見て、その姿が異様だった。
カカシにとっては普通のことだ。
それが仕事だからだ。
必死に命乞いする裏切り者が、目の前にいても、容赦なく闇へ葬った。
真っ赤に染まる自分の手を見ても、なにも感情の変化はない。
仕事。これは仕事だ。
仕事だから仕方ない。
仕事だから問題ない。
仕事だ。仕事なんだ。
そう割り切れば、
自然と心は波風を、たてなかった。
すべては
木ノ葉隠れ里のため。
仲間のため。自分のため。
生きるため。
カカシは、しだいに、
自分の心を殺すのが、上手くなっていた。