第29章 始まり
突然だ。
黒い影がグランドの四方から
飛び出す。
「!?」
向かう先は迷うことなく
サスケ君の方角。
「ーー!!危ない!!」
鋭利な刃物や鎖が
サスケ君を襲いかかる。
身体は本能的に動きだす。
幼児体形では本来の力が出ない。変幻を即座に解いた。猛スピードで向かう敵をめがけて瞬身の術を使う。同時に背中の刀をひき抜く。
間近に迫る男は
確証を得た瞳で嘲笑う。細く歪んだ。
「うちはサスケ……悪く思うなよ」
迷うことなく、振り下ろす鋭い刃の斬撃を、全開に注ぐチャクラ刀で防いだ。
強烈にぶつかる音とともに、鋭い火花が目の前で弾け散る。強硬な力を受ける。歯を食い縛って足に力みが入り、地面が深くめり込んだ。
「……ぐ……!」
間一髪。刃の交差音が
細かく揺れ動く。
チャクラ刀が本来の役割を果たしていない。斬れ味が悪い。普通の刀のようだ。なんて弱々しいのか。
"……チャクラが乱れている"
ネジの言葉が辛辣によぎった。
「……ほう……この時間、中忍しかおらぬと得た情報……間違いか……」
黒い頭巾で身を固めた男は
片眉を上げる。
「しかし……取るに足らぬ」
敵が刀を離して後方に距離を保つ。仲間に合図を送り、サスケ君と私の周りを取り囲んだ。
……何人だ。
見渡せば4人……。
いや、もっとだ。
木の下にいた紅やアスマも
交戦している。
イルカ先生は、真後ろに身を寄せる子ども達を庇いながら、銀のクナイを構える。
焦燥に駆られた姿で、
イルカ先生が敵の攻撃を防ぐ。
……ヘタに動けない。後方の20名以上の生徒が恐怖で硬直する。
「サ、サスケくん………」
身を寄せ合う女の子達が泣き震える。大粒の涙が頬につたう。当たり前だ。戦闘経験は誰ひとり皆無なのだから。
「ど、どうしたんだってばよ!」
慌てふためる声が、
うずくまる集団から響く。
金髪の少年が立ち上がった。
「おいナルト、静かにしろよ!殺されてーのか!」
立ち上がったナルトの頭を、手のひらで無理矢理抑えつける。シカマルは屈んだ姿勢で、眼球を左右に動かす。
……シカマルは考えている。
今置かれている状態で、できる最善の方法を。敵から安全に脱出できる方法を。