第29章 始まり
真ん中より5センチ
右にズレた場所だ。
「……やっぱり難しいな」
……イタチなら怪我をしても、
百発百中だろう。
機械のように正確で
狂いのない美しいクナイを
いつも投げていた。
羨ましいほど
美しい曲線を描く。
いくら頑張っても
彼の真似は、できなかった。
5センチのズレが生じた。
腹を完治させない限り、
誤差1センチに近づかない。
それが暗部ろ班精鋭部隊の
許容範囲だ。
「花奏ーー、お疲れ様ーー」
紅が手をふって
声援を送ってくれる。
なんだろう。恥ずかしい。そうだ。
気恥ずかしい。
手をあげて「ど、どうも…ありがとう」と答えたが、恥ずかしい。こそばい気分だ。
「あー、つかれた」
三角座りする皆のもとへ戻った。私を見上げてポカーンとするのだ。ナルト君は好タイムだった。さらに私はそれを上回った。今回は私がいま出せるベストをつくした。
「……おまえって……スゲーんだな」
キバ君が驚いた表情で私を見上げる。
頭上の赤丸がワン!と元気よく吠えた。
私は首をふる。
「まだまだ、だよ。ぜんぜん……」
そこまで言って言葉につまる。
つい肩を落とした。
「お疲れ様」
私の肩を
イルカ先生がポンと
優しくたたいた。
「やはり交換留学生は違いますね。休んでください」
イルカ先生が微笑み、
私をねぎらってくれた。
「イルカ先生、ありがとうございます。頑張りました」
「つぎも期待してるぞ」
「ふふ……はい!」
私は自分の席に座った。
途端に肩を掴まれる。
「花奏ってば、ウィルス性胃腸炎だったくせに、すっげー速いんだなぁ!」
ナルト君が背中をバシバシ叩く。
いたい痛い。いたいってば。
アハハハ、と
後頭部に手をそえて笑った。
「本調子じゃなかったんだ。本当ならもーーっっと速いタイムを出せたし正確だったかも!あー他の人なら、もっと良いタイムを出るかもね」
なんて言ってみた。
横目でちらりと後ろを見た。
ぴくりと片眉があがって
肩が揺れる。
背後にいる少年を
私はあえて煽った。
案の定、燃え出す。
メラメラと闘争心が。
「……ちっ」
サスケ君の
イラついた舌打ちが小さく鳴った。