第29章 始まり
「へっへーーん」
ナルトくんは動じない。
仁王立ちだ。可愛い鼻下をこする。闘争心の瞳で見つめた先は、永遠のライバルだった。
「サスケェェ!!今日のオレはいつもとちがうぜ!目指すはいちばん!特訓の成果を今日こそは見せてやるぜ!」
ビシッと決まる。
サスケ君を指差した。
「……………はー、そうかよ」
やる気ない返答がひびく。
はっきりいえば眼中にない。
サスケ君の視線の先は
ナルト君じゃない。
私と同じように、丸太や網の障害物を見ているのだ。イメージトレーニングだろうか。秀才の対応だ。
この光景……
どっかで見たことがある。
……そうだ。
幼少期のガイとカカシの姿だ。
冷めたカカシと熱いガイ。
昔から二人のやり取りを観戦するのが
私は大好きだった。
最近……ふたりが勝負する姿を
とんと見かけない。
ろ班の暗部隊長に就任してから、責任ある仕事や細かなスケジュール管理の仕事が増えた。気苦労も増えただろう。
ガイと遊ぶ余裕が
なかったのかもしれない。
「クッソーー、見てろよ!サスケェ!」
ナルト君が叫び出す。
地団駄を踏んだ。憤慨する。
歯をきつく食いしばった。
「ぜっったい!いちばんに、なってやるぜ!」
白線上に立つ。目指すは頂点。
右足を前に出す。
身体をかがませて走る体勢になる。
闘志を燃やす瞳は真剣だ。
いつも全力プレーのナルト君だが、
今日は雰囲気が違う。
説明しろと言われても難しいが……。よく見れば、生傷や引っ掻き傷が手足に出来ている。
ーー本当に修行を…??
私はすぐに
見やすい場所に移動した。
彼の本気を自分の目で確かめたい。
「ナルトのヤツが
サスケに敵うわけないじゃん」
背中からクラスメイトの声が
聞こえた。
「だいたいコントロールが下手くそだろ。前に手裏剣を暴投させたしよ」
「ドベのくせに」
「調子こいて、いつも失敗するくせに」
後ろでまあ酷いことを
言われまくる。
子どもは本当に思った事を
すぐに口にする。正直者だ。
「ぜーーったい勝てっこない」
誰もナルト君がいちばんに
なると信じてないようだ。
はたして
今日も失敗するのだろうか。