第29章 始まり
「ふーん……まあ、無理すんじゃねーぞ。もし痛むなら、オレの家に来いよ。薬やるから」
……そうだ。シカマルの家は奈良一族。薬草や鹿の角を使った医療薬が有名だ。暗部の医療班チームの治療でもよく使われる。
私は「ありがとう」と微笑むと、シカマも、ニッと笑顔を浮かべた。
「じゃあー、卓上のモノは出来るな。花奏、今日の昼休みは将棋しようぜ。約束だろ?」
「えっ?……ああ!」
約束……。そういや、した。任務に出る前の、ボールを片付けているときに、将棋をすると約束した。
私が「了解」頷くと、
シカマルは「絶対だぞ」と言い、膝を指さした。
「猫なんか持ってきてどうすんだよ。忍猫にでもすんのか?」
「うん。考え中でさ、可愛いでしょう?名前つけようかな」
不思議だ。膝の上にいる白猫の体温と鼓動が心地よい。寝てる姿はなんとも言えない。愛くるしい。
「おはよー」
どすんどすん。重低音の足音が大きく揺れる。教室の扉が開いて、声がした。
「シカマルーー。もー先に走って行っちゃうからビックリしたよ」
自席についたチョウジは、
机の上に鞄をのせる。
「あーー、悪ィ、チョウジ。スッカリ忘れてたぜ。まあ、コレで許してくれよ」
シカマルは未開封のチーズ味のポテトチップスをチョウジに渡した。ポテトチップスの上で濃厚なチーズが垂れ落ちそうなパッケージ。
「……まあ、しかたないなーー。とりひきせーりつだね」
身体を揺らして、どすんと席に座ると、バリンと袋を破る。濃厚なチーズの香りが舞う。
「花奏、ひさしぶりじゃん。元気になってよかったね。コレあげるよ」
ガサガサと袋から取り出して、
チーズ味のポテチを差し出した。
「……え!いいの?」
思わず驚嘆の声をあげる。
よだれが出ていた。
シカマルがチョウジに渡した商品は、3種類の濃厚なチーズを、ふんだんに使った贅沢な一品であり、ヘルシーな油でカラッと揚げた究極の一品。チーズとポテトの絶妙な味わいが売りの一品。
ーー私が好きなヤツ!
「あ、ありがとう!」
無遠慮にパリパリいただく。超美味い。もっと欲しい。もっとくれ。
もう、くれないだろう。
もう袋のなかは空っぽなのだ。
ゲップが響いた。