第29章 始まり
「……はぁ……」
感嘆の声をあげたのは
私じゃない。
サスケ君を取り巻く黄色い歓声。絶賛する甘い熱い視線たちだ。
「…サスケ君って、今日もカッコいい……あー本読んでるー♡」
「サスケ君……あ、こっち見そう♡」
歩けば女性が振りむく。座れば熱烈な眼差し。精悍な瞳が女子へ向かうと、黄色い声が教室内に響く。
すべての仕草に
注目される。
……どんだけ人気なんだ。
クラス女子生徒の九割九分九厘
サスケ君推しなのか。
どうなってんの。
「ナルトくん……今日お休みかな……」
ひとり落ち着かない様子で、
廊下を見つめるヒナタ。
……あれ、そういやナルト君がいない。
どうしたんだろうか。
「おーーす、久しぶりじゃねーか」
突然だ。視界が真っ暗に変わる。ボスンと、鞄が頭上に乗るのだ。いや待って。教科書とノートと筆記用具が入った鞄はずっしり重い。なんキロあるの。
「あーもう!なにするの、シカマル 」
頭から、どかした。
身体をねじって後方に振りむくと、
オールバックの少年が、イタズラ目で笑う。
「へ、元気そうじゃん」
シカマルは眠そうに背伸びして、私の真後ろの自分の席についた。どすんと机の上に鞄を置く。
「やーっぱ、サスケのヤツ、花奏がいると元気じゃねーか」
シカマルが鞄から教科書やノートを机の中に入れる。私は少年を見やった。猫はスヤスヤ膝の上に眠る。
「……そう?」
元気……?
夕食のとき、お弁当や料理を作りに行っていた。毎夕会っていた。サスケ君は普段通り変わりない。
「……楽しそう?とか?」
そうだろうか。
変わらない姿だが。
「ああ、花奏がいねーと、アイツ一言も、喋らねーし」
シカマルが発したのと
同時だった。