第29章 始まり
一度家に戻り昼食を食べたあと、午後3時ごろ、パックン達の療養する病院へ、カカシと私はお見舞いに向かった。
今日一日のどかな日々を過ごした。私は自主リハビリ。軽い散歩。カカシは自宅療養。
「あ、いた」
遠くにいる忍犬8頭を見つけた。病棟の中庭の、日当たりの良い芝生の上で、輪になりオヤツを食べる。
8忍犬の包帯はすでに外れる。体調は戻っているようだ。にぎやかな声が、私たちのところまで響く。緑色の芝生が柔らかな風で揺れる。今日も寒さは和らいだ。
「花奏、悪いけど先に行ってて。アイツらの退院手続きしてくるから」
忍犬たちを見ながら目を細めたカカシは、「よろしく」と私の肩をポンとたたいて、病棟内に歩いていった。
テンゾウから忍犬たちの様子を聞いていても、心の中ではずっと心配だったようだ。元気な姿を見た瞬間、カカシの表情が安堵したのだから。
私がパックン達の方へ歩くと
声が大きくハッキリと聞こえる。
「うむ…………、ワシの舌を喜ばすジャーキーは、なかなか出てこん。ビーフジャーキーも良い。まあ、鳥のササミもよいが、もう少しワシを納得させるような熟成した肉が……」
どこぞの堅物の老舗料理人だ。ビーフジャーキーを美味しそうに頬ばりながら言うセリフではない。
堅物の尻尾は、美味しさの喜びを隠せずに、ゆらゆら揺れた。
「文句言うなよパックン。今日も最高品質のビーフジャーキーだぜ!朝昼晩、毎日でも、このビーフジャーキーでイイぜ!ケケケ」
それは…イヤだ。
喜びを爆発させるのはウルシ。つり目でケケケって笑うのが特徴的で。皿のオヤツは山盛りだ。サービス旺盛な病棟だ。
「まったく単純だワン。もっと落ち着いて食べろワン……。だけど、なんてうまい……のか…!!」
クールに装いたいのに美味すぎてサングラスをかけた忍犬、アキノは無我夢中でてんこ盛りのオヤツを食べる。
「信じられねー美味さだ」
目がまん丸だ。バクバク食う。食いまくる。となりのモヒカン風の髪型のシバの分まで頂戴して食べた。
「おまえ、何すんだワン」
さすがにシバが怒る。前足が出る。イザコザが始まった。
ヤバい。走って向かおうとしたが、周りは気にしない。