第28章 お弁当
サスケくんのアパートが見えてきた。階段から降りる複数の音が聞こえる。
「オレはひとりでやれるって言ってるだろ。今から買いに行くから、ほっとけよ」
サスケくんの声だ。その背後から畳みかける声が響いた。
「サスケ、お前、昨日もそんなことを言って逃げただろう。今日こそはいっしょに飯に行くぞ」
あたたかい優しい声。
この声はイルカ先生だ。
「イルカ先生イルカ先生!オレってばラーメンが食べたいってば」
ガンガン足音が弾く。
明るくて元気な声。
ナルトくんだ。
カンカンカンと階段を下り、足や身体が見えて、顔がこちらを向いた。
「……あ、サスケくん!」
私は笑顔で手を振る。7日ぶりの再開に嬉しくて目尻を下げて喜んだ。
「ああ、花奏さんじゃないですか!身体は大丈夫ですか?」
後ろを続くイルカ先生が
にっこり微笑んで、私の方に近寄った。
「イルカ先生、ありがとうございます。なんとか無事に生還しました」
「……花奏」
サスケくんは微動だにせずに固まる。私をまん丸な目で見る。手はズボンのポケットに。どちらかと言えば怒り目だ。お、怒ってる…なぜだ。
「なーなーイルカ先生ってば、その姉ちゃんだれだってばよ!!もしかしてもしかして!イルカ先生の恋人とか!?あれ、花奏はウィルス性なんやらで休んでるはずだってばよ」
ナルトくんがイルカ先生のとなりに並んで、私を見上げる。頭に大量のハテナマークを並べて。
ウィルス性なんやらとは、ウィルス性胃腸炎のことだろうか。妙にリアルな休み理由だ。
「こらナルト、失礼だろ、この人はオレの先輩だ。す、すみません。花奏さん、もう動いて大丈夫なんですか?」
イルカ先生は私が入院していたことや任務のことを三代目から聞いているようだ。
「治療は終了しています。今はリハビリ中です。今日はサスケくんが元気かどうか心配で来てしまいました。大丈夫でしたか?」
「ええ。まったく問題なかったですよ」とイルカ先生。
「アイツは、なんでも器用にしちゃいますからね。今日の授業は終わるのが遅かったので、飯に行こうかと提案したのですが……」
イルカ先生は苦笑いで鼻をポリポリとかいた。ついでに視線をサスケくんに向ける。
……この7歳の男の子が、
素直に「うん」と従うはずがない。