第28章 お弁当
ぷくぷくと片手鍋から小さな泡が浮かんで味噌の香りが上がる。茄子の味噌汁だ。コンロのひねりを回して、火を止めた。
壁時計の針は
6時50分前を指す。
夕食時間だ。
食器棚の扉を開いて
取り皿を掴んだ。
棚の奥に、
私の視線が向かった。
透明の弁当ぐらいの大きさの
プラスチック容器が奥にあった。
それは、おかずや、お握りを詰めて
お弁当代わりにできるタッパーだ。
私は自然と手を止めた。
……夕食。
「……サスケくん」
イルカ先生に夕食や生活のお世話をお願いしている。だから大丈夫だとわかっている。
私は透明なタッパーを掴んで
食卓の上に置いた。
器用でなんでも出来る男の子だ。私の心配なんて無縁だ。
冷蔵庫から卵やウィンナーを取り出して、熱したフライパンで焼いた。器用に菜箸を使って、黄色い卵焼きを巻いた。
天才で、なんでも身の回りのことが出来るとわかっていてる。イルカ先生に頼んでいる。それでも一度気になれば身体が動く。やっぱり心配なのだ。
綺麗な花を病院まで届けてくれたのも、サスケくんだった。
せめて
ありがとうと、よろしくを
伝えに行く必要があると思うの。
焼けたウィンナーと卵焼きを皿に盛った。炊飯器の蓋をあける。炊きたてご飯の煙りがのぼる。熱々のご飯をよそい、塩でおにぎりを作った。
具材は、なにが好物か知らない。
ふたりで食べに行った日、
たしか、注文していた物は……。
ちょうどスーパーで買ったものが
冷蔵庫の中にあった。
お握りの具の中に、
おかかを入れて握った。
それからサラダに
トマトを添えて。
たぶん。
トマトやおかかのお握りが
好きなのだろう。
わざわざお店で注文したのだから。
取り越し苦労ならばそれでいい。
もう食べているなら
明日の夜にでも食べて欲しい。
ただ、サスケくんの元気な姿を
私が見たいだけなのだから。