第5章 出発
ヤナギは、20歳を迎えた頃から、過度な行動を控えるようになった。
阿吽の門の方角へ屋根を伝い、地面に着地する。全速力で真っ直ぐに走る顔が、徐々に綻んでゆく。
今13歳ならば、私の背後を追いかけるはず。ヤナギの所属部署は元々「い班」だった。
暗部初任務の日。スパイ疑惑をかけられた中忍の追跡調査を行う仕事。先輩、カカシ、ろ班隊長が一緒だった。全然不安を抱いていない。
出発時間を待つ私。隣にいるヤナギは、落ち着かない様子。1人で椅子に座ったり立ったり、くるくる歩き回ったり、大層忙しそうだった。
大丈夫だと告げて出発した任務中に、当時担当「ろ班」隊長が突如立ち止まり、斜め後ろを睨む。
「出てこい!」
岩陰に隠れたヤナギを見つけ、その場にいたカカシと私は、呆気に取られ唖然としてしまう。
私の後を追いかけて尾行したヤナギは、当時「い班」隊長に大目玉をくらい、声を張り上げてこっ酷く叱られた。
「ひっつき虫」
カカシに嫌味を言われても、まったく気にも止めないヤナギ。
ほとぼりが冷めれば、また始まる追跡。何回も何回も上司や先輩に怒られても止めないヤナギ。
休日を返上して暗部本部に来る毎日。私のそばから一切離れない。仕事は滞りなく行い、終われば真っ先に「ろ班」待機所へ足を運ぶ日々。
見兼ねた「い班」隊長は、四代目に相談してしまう。どうにかして欲しい。遂に助けを求めてしまう始末となった。
話を聞いたミナト先生は、苦笑いを浮かべ、頭を下げて困った顔をしていた。後の忘年会で、酒を飲みながら笑って話す隊長から、その話を聞いた。
数日後、私とカカシがいる「ろ班」にヤナギは所属変更と通告が入る。
掲示板張り出された紙を見た時のヤナギは見物で、誕生日と正月とクリスマスがいっぺんに来たように飛び跳ねていた。