第19章 記憶
カカシの家に着いた。「恥ずかしいから外で待ってて」と伝えて、ひとりでカカシのアパートの中へ入った。
玄関を裸足であがり、壁にあるスイッチを押す。パチンと小さな音が鳴り、ぼんやりと明かりが灯った。
暗闇のなかでも
歩き出していた足を、思わず止めてしまう。
「……カカシ…」
彼の部屋を見て
目を大きく見開いた。
カカシの部屋が
がらんと変わっているのだ。
…驚いている場合じゃない。
急がなきゃ。
わかっているのに、つい部屋中を見渡してしまう。見入ってしまうのだ。
カカシは、飾ることを余計だと考える男。シンプルイズベスト。
女モノやキャラクターモノは苦手な男だ。ましてや子どもグッズなど皆無だ。
カカシのアパートは
昔からさっぱりしている。
天井まで届く高い本棚と、机と椅子とベッド。そしてテーブルや箪笥。小物の写真立て。
それだけだ。
いま、私の目の前に広がる部屋は
別人が使うのか、と思うほど、
あまりにも違う。
「カカシ……あなた……」
そっと、ベビーチェアに手を伸ばした。
ご飯を食べるときに私が使ったのだろう。
台所には赤ちゃんが使う、カラフルなフォークやスプーン。コップやお皿。
コケても痛くないように、
床に敷かれたクッションマット。
はしにはカタカタと動く手押し車。
木製で出来た積木。
ふわふわの柔らかなボール。
ベッドには柵が出来て、
落ちないよう工夫されていた。
タンスには黄色いヒヨコや、茶色の子熊のぬいぐるみが並んで飾られる。
私は
ぬいぐるみに、そっと触れた。
それは、
私が昔から好きだと言っていた
クマのキャラクターだった。
「っ、いけない!」
私は急いで、タンスの下からいちばん目の引き出しを開けた。きちんと畳まれた任服。下着。暗部の装具。兎面。すべてある。
そして任服のとなりには、私の好きなキャラクターのクマの、パジャマまで入っていた。
ジャージやコップは、ヤナギとやりあったとき、使い物にならない状態になった。
台所には
クマのコップもあった。
"花奏、コップさ、また買いに行こうな。割れちゃったしね"
やり取りした記憶が残ってる。
日々忙しい彼が合間を縫って
買いに行ってくれたようだ。
自然と私に笑みがこぼれた。