第19章 記憶
「オレのことは気にしないでいい。いまは花奏さんのそばにいたい」
イタチは、私の瞳をまっすぐに見つめた。切なげな瞳がぶつかる。
「会いたかった……ただ、あなたに、花奏さんに最後にお会いしたかったんです」
そう言うとイタチは
ふわりと私を抱きしめた。
「…花奏さん……」
「イタチ……」
抱かれても素直に受け入れていた。
嬉しいと喜んでしまう。
小さくなった時、
いっぱい抱っこしてくれたの?
すると頭に
滝のように映像が流れてくる。
"花奏さん…"
私の名を呼んで
抱っこしてくれるイタチ。
優しく微笑み
頭を撫でてくれるイタチ。
私は見上げて
何度も彼に抱っこをせがんだ。
イタチはイヤな顔ひとつしないで、
優しく抱えてくれた。
思い出が溢れて涙目になる。
きっと、
小さな私を大事にしてくれたのだろう。
その記憶が次々と頭に浮かぶのだ。
「ありがとう…イタチ。私のお世話してくれて。たぶん…小さな私は、イタチのことが凄く好きだったみたい」
抱かれた小さな私は、
笑顔でキャハキャハ嬉しそうに笑った。
そうか。
イタチを私は追いかけて転んだのか。
いなくて必死になって
泣きながら探したのだろう。
私は素直に抱かれていた。
そのときイタチの声が耳もと囁いた。
「花奏さん……あなたが好きだ。里を今から出ます。オレは暁に行く」
「え…あかつき?」
「ああ」
頷くイタチはまっすぐに私を見つめる。頬に手が触れた。それは大事なモノを触るように。
私は時間が止まる。
真剣な眼差しに言葉が出てこない。
「………イタチ……んッ…」
言葉を出す前に、イタチは私の唇を奪っていた。
突然の官能的な口付けに目を見開く。
強く抱きしめられて、されるがままになっていた。
「ん………」
角度を変えて
熱い舌が侵入してくる。
「ん、ダメ……だよ……イタチ、わたし…」
力で硬い胸板を押してもビクともしない。啄むようなキスに流されてしまう。
「好きだ……花奏さん…」
黒かった瞳が
紅く染まったときだった。
イタチの背後から
真っ黒な
身の毛もよだつ殺気を感じたのは。